6.チビナスがちょっと怖がる小話〈首が痛い〉

2015年04月07日 14:18
何かを感じるゾロとただ怖がるチビナスのお話。
ついったでちょっとだけ盛り上がったプチ恐い話を、ネタが尽きるまで小出しにしてみようかと。
ワタシ自身は「全く見えも感じもしないのに怖がる人」ですが、周囲に体験者が多いのでその人たちのお話を拝借します。
ゾロナスにしたのは、粗塩ぶん投げるナスがかわいいと思ったから、なだけです。
取り合えず第一弾は先日あった旦那とのホットな話題から。
 





 がちゃがちゃと鍵穴が回る音。
 帰ってきた! とチビナスは玄関まで出迎えに行く。

「おっかえりー!」
「おう、ちょうど良かった。塩くれ、塩」

 おかえりにはただいまだろうが! とがなりたくなったが、取り敢えず突然の要求の理由を聞くことにする。

「塩って何すんだよ」
「塩って言ったらアレだろ、アレ。粗塩あるだろ? あと小皿な。玄関に盛り塩するから」

 アレってなんだよ、と再度突っ込みたくなったが、ゾロはこちらの質問にちゃんと答える気はないようなので、仕方なしに言われた通りのものを用意する。

「おれ、一週間くらい前から首痛いって言ってただろ?」
「だから病院行けって言ったじゃんか」
「アレな、どうやら霊障だったらしい」
「は? レイショウ?」
「前に職場に持って行ってた塩、名札に入れたら楽になった」

 小皿に粗塩を小山型に盛りつけながら、ゾロがよくわからないことを言い出した。
 チビナスは小首を傾げて話の続きを待つ。

「よく考えたら前も一回あったんだよな、こういうの。道理で最近線香臭いと思ってたんだよ」
「線香? え?」
「色々調べたら、そろそろ帰ってこいってェ合図かもしれん」

 やはり要領を得ない内容に、ゾロは一人で納得したように話を進める。
 塩を盛った小皿を玄関の隅に置き、ちょいちょいと指でチビナスを玄関外へ誘い出した。
 なんだよもー、と口先を尖らせながらサンダルを引っ掛けて素直について行く。

「だから今週……はもう無理か。来週末、田舎帰るぞ」
「なんなんだよもう! 分かるように話せよ!」
「だからな、ご先祖様からのサインなんだよ、多分。田舎帰って顔見せろってェな」

 粗塩の袋を手渡され、高さを合わせるようにしゃがんで背中を向けられる。

「ご先祖様だからな、悪いモンじゃねェが、ま、お清めだ」
「ご先祖様ってなんだよぅ……も、もしかして……ユーレイ、とか?」
「まあ、ユーレイっちゃあユーレイか」
「……うううぅぅぅわあああぁぁぁ! 退散退散ー!」
「うわ! いてっ、コラ!」

 ユーレイと聞いて錯乱したチビナスがゾロに向かって粗塩を投げつける。本来つまむ程度を肩辺りにパパッと振りかけて払えばいいのだが、それはもう節分か土俵入りかというほど鷲掴んでは親の敵のように力いっぱい。

 

 にがりを含んで適度な湿気を帯びた粗塩は、力を込めて放れば砂粒が当たるのに近い衝撃がある。しかもワイシャツの首筋から中に入り込んで、ザラザラするやら微妙に溶け出してベタベタするわで散々だ。
 なんだかもうどうでも良くなってしまって、ゾロはされるがままになっていた。
 漸く一袋分の粗塩を消費したチビナスが、背後でふぅふぅと息を荒くしている。ゆっくり振り返ったゾロの額には太い青筋が立っていた。

「気が済んだかよ、テメェ」
「……なんだよぉ、お前が変なの連れてくるからじゃねぇか……」

 半泣きのチビナスに毒気を抜かれる。

「別に連れてきたわけじゃねェし、先祖なら縁者だろうが。悪いこたしねェよ」
「だって、首痛いって……」
「それはちょっとした合図だって。だから田舎行って墓参りして手ェ合わしてくんだろう。ご無沙汰してすいませんでしたってな。オラ、お前も手伝え」

 頭を払うとバサバサと塩が落ちてくる。

「ったく、食材無駄にすんなってウルセェのはどこのどいつだよ」
「うっせぇ! このままマリモの塩漬け拵えてやろうか!」
「あー、もう面倒くせェ。このまま風呂入るぞ」

 頭も体も何度払っても塩が落ちてくるのに焦れて、ゾロは立ち上がって家に入っていく。
 一緒になってついて行くチビナスの手も塩気でベタベタだ。
 ぺろりと掌をひと舐めする。

「しょっぺ」

 顔を顰めながら玄関の隅に置いた盛り塩に、何となく両手を合わせてチビナスはゾロの待つ風呂へと走って行った。



end