28.お題@警察官と美容師なゾロサンで『覚めたくない夢』

2015年04月07日 15:13
警察官美容師でやりたかったネタの一つ。色々と要素薄いですが。
 頭のおかしなサンジくんがいます。ご注意。





 はぁはぁと荒い息遣いで額の汗を拭った。汚れた腕で擦りあげると、土のざらつきが肌を刺激する。けれどそんなことに意識を向けている余裕はなく、再びゾロは手に持った剣先ショベルに足をかけ、湿った土に突き込んだ。
 深く深く、穴を掘らねばならない。
 向かい合って同じようにショベルを振るう男を視界に収めながら、黙々と作業を続ける。

「こんなもんでいいか」

 サンジが額に張り付いた金糸を払いながら顔を上げる。ゾロと同じで顔は土で汚れて真っ黒だ。もっとも、月明かりだけが光源なのでそれもよくは見えていない。

「もう少し深く」
「えー、オレ疲れた」
「なら上で別の準備してろ」
「おう」

 楽しそうな顔で笑い、穴の縁に手をかけて軽々と出て行くその背を見送ってから、ゾロは穴を掘り進めた。
 もうそろそろ頃合いかと顔を上げると、穴の形に切り取られた夜空に浮かぶ月が望めた。今日はこんな作業に相応しい大きな赤い満月。
 小さく溜息を零すと、その月に重なるようにサンジが顔を出した。金色の満月だ、とゾロは思った。

「こっちも準備オーケー」

 そう言いながら片手を差し出してくる。迷いなくその手を掴み、引き上げられ穴の外に出た。勢い余ってよろけたところをサンジに抱きとめられ、視線が合って、そのままキスをした。ジャリ、と土が混じる。それには構わず舌を絡め、吸い合い、深く深く貪る。
 掘った穴の深さだけ、確かめるような口づけを。

「勃った?」
「てめぇもじゃねぇか」
「帰ったら、しよ?」
「なら、さっさと終わらせろ」

 名残惜しげに唇と首に回していた腕を離し、蕩けた瞳でゾロを見、ゆっくりと口角を上げる。

「オレは、ずっと勃ちっぱなしだ」

 赤い舌を覗かせて上唇を舐め、膨らんだジーンズの前をするりと撫で上げると、自分の仕草にピクリと体を震わせた。

「後で全部可愛がってやる。無駄におれを煽るな」

 ゾロは小さく舌打ちをしてから、二人の足元に転がっていたブルーシートを抱え上げ、今し方掘ったばかりの穴にどさりと落した。次いでサンジが用意していた黒のポリ袋を、中身が入ったまま穴の物体の上に放り投げる。

「バイバイ、レディ。今度は美しく生まれてね」

 そう言いながら、サンジは掘り出した土を穴に戻した。がさ、ばさ、とシートやビニールにかかる土の音は、やがて土同士が重なり合う静かなものになり、深く掘った穴を全て埋め尽くす。体重を乗せて固く踏み固め、その上を歩いても一度掘り返したのだとはわからないようにし、繁殖力の強いハーブの種をたくさん蒔いた。
 穴の底へ沈んだのは、サンジの美容室の客である名字しか知らない女。
 サンジは心根の醜い女を許さない質があり、今日も何かが彼の琴線に触れたのだろう、ゾロが呼ばれて店に駆けつけた時には、リクライニングの椅子に心臓に鋏を突き立てられた女の死体があった。

「持ってきてくれた?」
「ああ」

 動揺のないゾロはサンジに、血液反応を消し去る薬品を手渡し、自分は持ってきたブルーシートに女の体を包み込むという慣れた作業をした。その間サンジは薬品で血液の触れた箇所を丁寧に拭き取り、ポリ袋にどんどん詰めていった。そうして店をきれいに片付け、山の中へ来て穴を掘った。
 こんなことを続けて、もう何度目か知れない。

「なぁお巡りさん、ここでしよ? オレ、もう保たねぇ」

 熱い息を吐きながら、サンジが踏み固めた土の上に腰を下ろした。
 警察官という立場を利用して、行方不明の女達の情報を僅かずつ撹乱する。そんなことをするのは全て、この頭のネジがぶっ飛んだ恋人のためだ。この男が望むことはなんだってしてやる。
 いつか、自分がこの男に鋏を突き立てられようとも。
 ゾロは誘われるままにサンジへ手を伸ばし、泥だらけになって抱き合った。
 
 
 
end