11.【R-18】清しこの夜(約3800字)

2015年04月07日 13:54

以前書いた「可愛い人」の夫婦なゾサの二人です。
クリスマス小話。甘々な仕上がりになっているかと。

 




 クリスマスだなんて言っても、結局最終的にやることは変わらないわけで。
残業続きの仕事から帰ってきた恋人と、遅い時間ながら手製のクリスマスディナーを楽しんで、甘さを控えたケーキを食べて、酒もそこそこに指先が不埒に触れてくるのを拒む理由なんて、ひとつもなかった。
くすぐったさに小さく笑いながら、上がっていく息に熱がこもっていくのが自分でもわかる。
合わせた口唇の中で執拗に絡む舌をひどく甘いと思うのは、自分が喫煙者だからであるとどこかで聞いた。
甘いものを好まない恋人の一部がこんなに甘いだなんて反則だ。
だからサンジは、ゾロとのキスがとても好きだった。
それはゾロとて同じことで、見た目も中身もふわふわと甘ったるくて、でもそれだけじゃないビターな部分も併せ持つサンジの質が、その舌に表れているようで弄り倒したくなる。
そうやって二人は互いの舌を堪能するがそれだけで済むはずもなく、口許を触れ合わせながらそれぞれの衣服の中へ手を滑り込ませた。
細いが節のある長い指が腹から筋肉の溝を辿れば、皮の厚い大きな掌が腰から脇を這い上がり、片手が背骨を滑り降りると、残りが胸の主張を意地悪く捏ね回す。
艶を含んだ吐息が鼻から漏れるのを感じ取ると、ゾロは嬉しそうに口角を上げた。
もどかしくサンジの衣服を剥ぎ、自らも早急に脱ぎ捨て鼻息荒くその体に覆い被さると、下から眦を赤く染めた青が細く見据え、こちらもゆるりと口角を上げる。

「余裕ねぇの」
「てめぇもだろうが」

直に触れ合っていた雄同士を腰の動きで擦り上げてやれば、白い喉がひくりと反った。
どちらの物とも分からない滴る蜜で、ぬるりぬらりと少しの動きで大袈裟に絡み合う。

「ぅあ、や、っ……」

手を添えずそれだけで与え合う刺激は酷くもどかしく、決定的な快楽には程遠い。
快感に弱いサンジがそれに耐えられるはずもなく、すぐに両手が伸びてきて二人のものをまとめて扱き出した。
少々痛いくらいのそれは、ゾロのやり方を真似ているようだ。
手で刺激を与えながら自らも腰を動かして、裏の敏感な部分を擦り合わせて追い上げていく。

「……っハァ、あ…ぅん…きも、ちィ……」

次第に恍惚となる表情を眺め、サンジの好きなようにさせていたゾロも今ひとつ決定打に欠ける動きに焦れて、サンジの両手に更に両手を重ねて圧迫を強くした。
吐息のような喘ぎが鼓膜を濡らす。
蕩けた青がゾロを捉えると、赤い舌がちろりと上唇を舐めた。
応えるようににやりと笑うと、強く導いて二人ともに精を吐き出した。
ぶるりと身を震わせ、上がった息を整えていく。
どろどろになった四つの掌に苦笑しながら、その中で硬さを失わないお互いにまた笑いが漏れる。

「今日はこのまま突っ走ろうぜ」
「朝起きて文句言うなよ」
「あ、でもお前明日仕事じゃん」
「……休み取った」
「まじで? 珍しいな。ってか早く言えよ」
「忘れてた」
「結構重要だろうが」

なかなか休みの合わない自分たちなのに、と呆れた声が出てしまう。
それでも残業が続くほど忙しい最中に、休みを合わせて取ってくれたことはやはり嬉しかった。
普段の生活でも、ひとつ屋根の下にいて共に居られる時間はそれほど多くはない。
だからこそこうしたイベント事は、二人が一緒に居られる時間を作るきっかけにもなるので、できるだけ便乗するようにしている。
たとえ日付が変わってしまったとしても。
今回の場合は、サンジの職場である祖父のレストランが今日までクリスマスディナーを催していたため、サンジはそこを抜けることができなかった。
その代わり、イベント終了の翌日26日に休みをもらっていた。
普段ろくに触れ合えない二人がすることといえばひとつしかないが、サンジの方に負担が大きいため、気兼ねなく行うためには休暇はとても大切なのだ。

「じゃあ、明日は昼まで爆睡コースだな」

ゾロを叩き起こして弁当を持たせて仕事に送り出すことをしなくていい。
二人でゆっくりまったり、心地よい疲労の中で微睡んでいられる。
なんでもない時間がとても愛しいと、最近は特に強く思うようになった。
そんなことに思いを馳せていたら、手首を掴まれた。
ハッと意識を戻して見ると、二人分の白濁で濡れた両手へ交互に舌を這わせる琥珀の双眸に見下ろされていた。
ぞくりと背筋が震える。
触れたい、繋がりたいと欲を抱えるのが自分だけではないと安堵できる瞬間であり、自らもこの男を求めて止まないのだと自覚する瞬間だ。

「そんなに足りてなかったかよ」
「全然だな」
「そっか。そういやオレもそうだ」

愚問だったと胸の内で笑い、近付いてくる顔に舌を差し出してキスをする。
絡めたゾロの舌に甘さはなく、代わりに青臭い精の味に眉を顰めるが不快ではないという不意義な思いに、上がった口角から、ふ、と笑いとも吐息ともつかない息が漏れた。

「今日はなんだかすごく気分がいい」

繁忙期を乗り切ってハイになっているのは否めない。
こんな時のサンジはとてつもなく乱れることを、ゾロは密かに楽しみにしている。
サンジ自身さえ自覚のないままに、艶やかに。

「存分に喰いやがれ」

こうやってゾロを煽って、抱きしめてくる腕が、体が、青い眼が、愛しくて可愛くて仕方なくて、骨までしゃぶってしまいたくなる。
差し出されたものは残すわけにはいかない。

「足腰立たなくさせてやるよ」
「上等」

互いを補うように喰い合った。





ひんやりとした空気を感じて意識が僅か覚醒する。
もぞ、と身動げば足先だけ掛け布団から顔を出しているようだった。
ベッドの外の空気は冷たい。
こいつが厄介で、毎朝なかなかここから出られない。
今はまだ朝には遠く、きっと次に目が覚めるのは日が昇りきった頃だろう。
暖房はゾロに入れさせて、部屋が暖まってから起き上がればいい。
明日はもうそういう日だと決めたのだ。
サンジは冷え切った足先を布団の中に引っ込める。
さらりと滑る心地良いシーツの肌触りは、なかなか足先を温めてはくれない。
つい先ほどまで散々乱したベッドの上。
意識を飛ばしたサンジを風呂に入れて清め、ベッドのシーツを交換し、こうしてまた抱きかかえてベッドの中で眠る恋人になんとも言えない溜息が漏れる。
気が付けばこんな気遣いができるようになったのは、サンジが散々文句を言ったり蹴り飛ばしたりしてきた末の成果なのであるが。
おかげさまで濡れたシーツの上で目を覚ますことも、身体中にこびり付く残渣に眉を顰めることも、鈍痛に腹を抱えることもなくなったけれど。
少しだけ、ほんの少しだけ、手がかからなくなった我が子を寂しく思ってしまう親の気持ちに似たものを抱えていると言ったら、世の子育てに奮闘している方々に申し訳ないと思いつつも、でも本当にそんな気持ちなのだから仕方がない。
抱き合って眠るときは不思議とサンジが緑の頭をその胸に抱え、ゾロはサンジの腰を抱き込みその胸に顔を埋めていることが多く、今もまさにそんな状態だ。
サンジは冷え切った足先をごそごそとゾロの足に擦り付けていたが一向に温度は上がらず、そこからじわじわと温度が下がってくるようで眉間に皺を寄せる。
最後の手段とばかりに擦り付けていた足を、遠慮なくゾロの腿の間へ差し込んだ。
ん、と呻きが一言だけ胸に零れるが、起きる気配は全くない。
じわりと染み込んでくる熱に、じんじんと足先が疼いてくる。
サンジはほぅ、と安堵の吐息で短い髪を濡らし、ふわりとした倦怠感に引き摺られもう一度眠りの中へ身を落とそうとしたその時、不意に違和感が襲う。
緑の頭をさわさわと撫で回しながら、ひょいと持ち上げた左手。その薬指。
カーテンの隙間から差し込む街灯の微かな灯に翳して、鈍く光を反射させるその指輪に暫し呆然としてしまった。
ぴったりと指に収まる銀色は、サンジが気を失っている間に嵌められたのだろう。
ジャストフィットするサイズに、そういえばコイツはオレの服だろうと靴だろうとサイズを間違えたことはなかったな、と妙に感心する。
それにしても。
一緒になってそれなりの時間が経った。
お互い忙しくて用意するのも難しくなってきたから、イベント毎のプレゼントももういいよな、とそんなことを話してから久しい。
何より互いが一番嬉しいのは、こうやって共に過ごせる時間であるのだからと。
だから今回のこれは本当にサプライズで不意打ちを食らったし、よりによって指輪だなんて。
マリモのくせにマリモのくせに、と悪態をつきながらも、顔が緩んでくるのが自分でもわかる。
ずず、と鼻をすすったけど泣いてなんかいないからな、と胸の中で言い訳をした。
困った、もう寝られないじゃないか、と文句を言いたいが、代わりに胸に抱いた頭をぎゅうっと力一杯抱き締める。
応えるように腰に回った手に力がこもるが、どうやら起きたわけではないらしい。
そうされるとなんだか急にまた眠気に引き摺られて、ゆっくりと瞼が落ちていく。
体に受けた疲労はやはり、意思を上回る。
とりあえず明るくなって目が覚めたら、いつものように何気ない風を装ってゾロに部屋を温めさせ、それから指輪の意味を問い詰めてやろう。
本人の口から言わせてやる。
サンジは幸せな思いに包まれながら、意識を眠りの淵に落とした。
再び目醒めた彼がゾロの指にも同じ物を見つけ、照れながら互いの指に嵌め直す、なんて儀式めいたことをすることになるとは思いもせずに。



end