3.Charge(約1500字)

2015年04月07日 17:30
テーマはチャージ(充電・溢れそうなほど一杯にする)とハグ!
 





 ふー、と甲板で一服。
 視線に気付いて振り返ると、日陰に座り込んだローがこちらを見ている。目が合うと、表情も変えずに「黒足屋」と一言で呼びつけられる。
 サンジは最後に一度強く吸ってから、携帯灰皿にタバコを捩じ込んだ。
 近くまで行くと抱えていた大きな刀を脇に置き、胡座をかいた膝の上を無言で勧められる。サンジはキョロキョロと視線を配り、誰もいないことを確認して背を預けるようにちょこんと座り込んだ。
 ローは両腕を前に回し、ぎゅうっとサンジを抱きしめる。もふっとした帽子がサンジの金の髪をくしゃくしゃと擦り上げた。
 帽子のふかふかの感触も、ぎゅうぎゅうと締めつけてくるちょっとした息苦しさも不思議と心地いい。なんだか尻尾をぶんぶん振った大型犬にのし掛かられているようだ。

「はは、なんか犬みてェ」

 思わず口にしてしまうと、ローは抱きしめたままサンジの首筋をべろりと舐めた。「ばっか、お前」と身じろぎするが、抱えられた体はビクともしない。肘から先だけを動かして、絞めつけるローの手をトントンと叩くと、少し力が緩められた。
 なんだか顔を見たくなって首を真後ろに向けると、隈に縁取られた目が少し細められる。反らせた喉をくっと抑えられ、唇が重ねられた。深さはなく、啄ばむような軽いキスが何度か続く。
 最後に少し顔を離し、サンジの鼻先に軽く噛み付いた。

「痛って! お前、何……」
「おれのことを犬扱いするからだ」

 だって可愛かったから……という言葉を飲み込んで、抗議の下唇を突き出す。サンジが何を言おうとしていたのかわかった上で、そんな仕草をするお前はどうなんだと思いながら、突き出された下唇を摘んで軽く引っ張ってやった。
 ゔー、と間の抜けた声を出してローの手を引き剥がすと、頭上からクツクツと小さな笑い声が落ちてくる。いいようにあしらわれている感じがするが、不快ではなく逆にホッとする部分もある。
 ローはサンジの手を取り、やわやわと握り出す。

「持ってきたか?」
「ああ、そうだ」

 ローに促され、ズボンのポケットから小さな容器を取り出して渡す。ふたを開けて中からハンドクリームを掬い、サンジの右手に塗り込みながら両手でぐいぐいと揉み出した。手の平を上に向けて親指と小指の付け根を両の親指で押したり、手の甲の骨の間のラインに指を這わせたり、指の間の水かきをひとつずつ摘んだり、親指と人差し指の間の肉が厚い部分を親の敵のように両側から挟み込んで押しつぶしたり。緩急をつけた動きが痛いけれどもじんわりとしてきたり。
 なんともツボを心得たお医者様のマッサージは無駄な動きがなかった。もう一度ハンドクリームを掬い、今度は左手に同じ動きを施す。初めこそ痛みもあったが、すぐにマッサージの心地良さに眠気を誘われる。
 日差しのおかげで、場所が日陰とはいえ空気は温かい。重くなってきた瞼に抵抗しようとするが、どうやら勝てる気がしない。ローの両手が白いサンジの手を揉みしだく様をおさめた視界がどんどん狭くなっていく。
 物騒な刺青を施した手が優しく癒しを与えている滑稽さに頬が緩みながら、とうとうサンジは夢の国へ旅立った。
 かくん、と首が前に落ち、サンジが眠ってしまったのがローにも分かった。マッサージは終了している。
 サンジの額に手をかけ自分の方へ引き寄せると顔が上がり、少し喉を反らせるようにして頭はローの肩に収まった。僅かに開いた口から、スースーと静かな寝息が漏れ聞こえる。
 ローは緩やかに口角を上げて首を前に倒すとサンジの肩に額を乗せ、彼の両手を自分のそれぞれの手で指を絡めるように上から握り込んだ。



end