10.【R-18】Irregular(約4300字)

2015年04月07日 13:42
目隠しして縛って自分で乗っちゃうサンジくんの、
ただ致してるだけのお話です。
 




 目隠しして、手を固定して「今日はオレがするからな?」と跨がってくる。久し振りの陸の宿だから、ぐずぐずに溶かして啼かせてやろうと思っていたのに。
 まあ、いい。やる気になっているようだから、好きなようにさせてやることにする。
 コイツはおれの傷痕に舌を這わせるのが好きだ。それから、筋肉の境目。いつも美味そうに舐め回す。
 今日は視界を塞がれているからそれを眺められないのは残念だが、どんな顔をして舐っているのかなんて目に焼き付いている。とろんと青を蕩けさせ、小さく息を上げながら頬を上気させて、やがて全身をピンクに染め上げるころには触れる肌も熱く、それこそコイツの方がよっぽど美味そうに仕上がるのだ。
 いつもはすぐに触れて欲しそうに中心の昂りを擦り付けてくるのに、相当我慢しているのだろう、おれのモノに触れてくる指先が震えているのが分かる。
 ぬるりと焼けるような熱に包まれると、蠢いて絡んでくる舌が筋や窪みを丁寧に往復するのがコイツらしいやり方で好きだ。頬張りきれないのに懸命に導き、喉の奥で圧迫するように扱いてくるときはもう、意地でもおれをイかせようとしている時なので、よっぽど苛めてやりたい時以外は逆らわずに咽頭の奥に出してやる。ごくりごくりと上下する喉仏を見られない代わりに、今日は一段とその動きを強く感じた。
 粗方飲み干した後の残渣を手で扱いて指に絡ませ、くちゅりと少し遠くで音が鳴る。短い吐息が耳を濡らし、また中心に熱が集まるのがわかった。
 やわやわと片手で陰嚢を揉みしだきながら、下生えに鼻を突っ込んで熱い息を吹きかけてくる。すぅ、と大きく吸い込む様もダイレクトに伝わってくる。

「お前の匂いがする」

 喉の奥に何かを絡ませたような掠れた声が、コイツの健気さを表しているようで堪らない。再び頭を擡げ始めた雄に、今度は軽く咥内を往復させながらたっぷりと唾液を絡めていく。
 不意に顔が離れ、濡れたところに空気が纏わり付いてひやりと僅かに温度を落とす。ごそごそと物音がして、また、触れる。そして締め付けられる、根元。何か紐のようなものを巻きつけて、絶頂への道を絶ったのだと分かった。

「何してんだ」
「縛ってる」
「そりゃ分かる」
「いいじゃねぇか、こういうイレギュラーも」
「おれがイかなかったら長くなるだけだぞ」
「いいさ。たまには切羽詰まった顔、見してくれよ」

 そう言いながら、ごそごそとまた何かをしている。熱く息を吐きながら、時折小さく呻き声。訝しんでいると、ようやっと腹に手をついて跨ってきた。先端に慣れた、けど何度でも味わいたい生きた肉の感触。ぐぷりと銜え込まれる。熱い熱い内部に、引き込まれているのか、飲み込まれているのか。
 腹の上の指が、握り込まれる。
 詰めた吐息が、短く熱い。
 この瞬間はいつもぶるりと全身が震えて、繋がったところから放射状に白い肌が粟立っていくのだ。それを見られなかったのは惜しいことをした。つぶつぶとした肌が、色付きながらまた滑らかな手触りに戻っていくところも楽しみの一つだったのに。
 ずぶずぶと尻が沈んできて、高い細い声を上げて一度体が大きく跳ねる。イイところに当たったようだ。いつもなら暴れる体を押さえつけて、何度もそこを擦り上げて泣かせてやるのに。
 全身に走る快感に耐え、尚も限界まで身を下ろし、全て飲み込んでから大きく息を吐いた。握り込んだ拳が震えている。息を整えてから、ゆるゆると腰が動き始めた。
 腹に乗っていた片手が後ろに回り、おれの袋をやわやわと揉み上げていく。おれがイタズラしないからか、普段しないようなことを随分と盛り込んでくる。

「そういやお前、まだイってねぇな?」

 いつもは入れる前に一度出すか、そうじゃなきゃ入れたら破裂するみたいに溢れさせるくせに。おれの声には応えず、ただひたすらに腰を振って手を動かし、おれと、己を高めていく。
 まったく、今日はどうしたっていうんだ。
 跳ねていた体が急に倒れてきて、顔の脇に両手を着いた。
真上から、はぁはぁと荒い息が降ってくる。どんな表情をしているのか、見られないのがもどかしい。

「なぁ……前に、さ、」

 呼吸が整わないまま、苦しそうに話しかけてくる。

「征服欲って……そんな話、したよな」
「……?」
「オレが、お前の手で、泣くのが……好きだって」
「……あぁ」

 記憶を巡らし、そういえばそんなことを話したことがあったな、と思い当たる。
 男には、征服欲ってモンが強くある。
 おれの手で、おれを想って、おれのせいで泣くのが堪らない。コイツの全部をおれのものにできたんじゃないかって、心臓が痛くなる程の喜びになる。
 なんの話の流れでそうなったかわからないが、奥を抉りながら、睦言のように聞かせてやった。
 がぶりと口を喰われる。途切れがちの息を押し込まれ、苦しいだろうに懸命に舌を吸い上げて嬲ってくる。舌に、唇に、そのまま辿って首筋に、歯を立てられじんじんと甘く痺れを残していく。噛んではそこに吸い付き、肩に胸にと場所を変えて繰り返した。
 その間も繋がったままの下肢はゆるゆる蠢き間怠っこしい。いい加減手の拘束も引きちぎって、思うままに突き上げてやろうと思いかけたその時、ぴりりとした刺激が胸から腹へ駆け抜けた。
 何事かと視界を塞がれたまま思わず顔を上げるが何も見えない。ぬるりと舌が這うと、もう一度、今度は緩い刺激がそこに蟠る。
 普段自分が触れられることのない場所。だけど、いつもおれが弄って苛めてやる胸のふたつ。おれがするように、再現するかのような手順で舐め上げ、摘んで、その次は。

「てめ……やめ、っ」
「オレにも喰わせろよ」

 息がかかった途端に、歯を立てられて小さく腰が跳ねた。その刺激で繋がったままの奥を突くと声を引きつらせて体を震わせたが、直後に嬉しそうに鼻を鳴らした。
 ぐい、と目隠しを外され、急に明るくなった視界に飛び込んできた顔。いつもの艶めいた色気が影を潜め、どうにも雄臭い、欲に濡れた表情をしていた。
 あぁそうだ、コイツだって雄だ。
 喰らいたい肉欲があって当然だ。

「……ふ、デカくなった」

 唇を歪めたその笑い方は、戦闘で獲物を狩る時のそれに似ている。
 おれも、コイツにはこんな風に見えているのだろうか。

「なぁ、オレの下で喘いでみろよ」

 言うなり、急激に腰を振りだした。大きく上下させ、中で感じるしこりに自ら当てて何度も擦りあげる。まるでおれがそうしてやるように、けれど上からがっしりと腰を押さえつけられ、自分では動けない。おれのものをきつく銜え込んで、激しく扱くようにひたすら往復する。
 自分だって相当に感じているだろうに、喘ぎ声を押さえてしかし小さく漏らしながら、獣の様な眼でおれを見下ろし、時折赤い舌を覗かせて、わらう。それにみっともなく煽られ、腰が動く。
 おれの上で、青い眼が眇められる。
 一瞬後。

「ッッ……ああ、あぁぁァァっ……」
「うっ……くぁっ……!」

 体を大きく跳ね上げ、後ろに仰け反りながらきつく締め上げられ、おれも情けない声を出してしまった。
 苦しいことに、まだ解放できていない。頭がおかしくなりそうだ。
 おれのものを締め上げたまま、腹の上でまだピクピクと体を揺らし、それでも気丈にこちらを見下ろし、口許がゆうるりと弧を描く。

「辛ェ、かよ。オレは出さなくても、イケるけどな? 誰かさんのおかげで」

 はぁはぁと息をつきながらちらりと自身の下肢に目を遣るので、つられて見てみれば案の定ではあったが、僅かに息を飲んでしまった。赤いつるりとしたサテン生地のリボンを巻きつけた陰茎が、ピクピクと脈打っている。
 やはりコイツは自分のものも縛り上げていたようだったが、滲む先走りで色を濃くしたリボンの先は、おれを飲み込んだ尻の下に繋がっていた。
 頬を紅潮させた顔に視線を戻すと、にやぁとまた笑う。

「赤い糸で、繋いでみた」

 そうしてぎゅっと孔に力を入れるから、これはもうされるがままにいてやる必要はないと、手を拘束していた頼りない麻のロープを引き千切った。
 元々が本気の拘束などでは無く、プレイの一環としてかけられたものだ。いつでも解くことはできたがそれをしなかったのは、このいつもと違うイレギュラーな空気が新鮮だったのと、先程充てられた雰囲気に飲まれていたのは否めない。
 だがもう遠慮することはない。こんなに分かりやすく煽ってくるということは、ここからは好きにしていいという合図だろう。
 自由になった両手で腰を鷲掴み下から思い切り突き上げてやれば、まだ絶頂の余韻が残る体は硬直し限界まで晒された喉は悲鳴を上げた。
 この声が堪らない。
 ぐるんと体制を入れ替え上からガツガツと突き入れれば、掠れた声を漏らしながらも青い眼がおれを見据え、嬉しそうに細くなる。それがまたおれを張り詰めさせ、ずくずくと熱を持って痛みさえ覚える。

「なぁ、イキてぇ?」

 どちらも解放されぬままの、繋がったリボンをぐいと引かれ、結わえられた根元が更にぎりりと軋んだ。

「……てめぇは、これでおれを征服したつもりか?」
「ひァッ……!」

 上向いて切なげに震えている陰茎を握れば、途端に甘い声で啼き始める。僅かずつ蜜をこぼすその口に指を捩じ込むと声もなく絶頂し、おれのものをぎゅうぎゅうと絞め殺そうとする。
 いい加減、こちらも限界だ。
 潤んでドロドロに溶けた青が、焦点が合わずに彷徨っている。だが相変わらず、口許は笑んでいた。

「……お前がオレを…欲しがって、切羽詰まって、余裕無くして…ガッついてくるだろう? オレじゃねえと、ダメだって唸る…お前のそれが、そうなら…確かに、オレのものにできた…って思えるな」

 そいつを征服欲って言うんならな。
 最後の言葉は音には乗らなかったが、耳の奥に滑り込んできた。艶然とした笑みはいつものように色を載せて、先程の雄臭さは微塵も感じられないのに、どうしてか心はざわついて落ち着かない。
 あぁ、これは、捕食者の顔だ。
 きっとコイツも、おれのこんな顔を求めているんだろう。
 おれの下で、ふっ、と空気が柔らかくなった。

「なぁ、楽しいかよ」

 どうやらおれは笑っていたらしい。

「オレは、楽しいぜ。楽しくて、気持ちくて、嬉しい……」

 獣のように支配下に置きたがる、互いの雄の性。喰って喰われて、それでもこうして求め合うことがとてつもない快感だなんて。

「おれも楽しいし、嬉しい。てめぇの見たこと無ェ面拝めたからな。もっと気持ちよくなりてぇし、善くしてやりてぇ。今度はおれの欲を吐き出すぞ」

 ずるりと僅かに抜き、未だ震える白い手を根元に導く。
 おれは腹の間で戦慄くリボンに手をかけた。

「てめぇで外せ。何度でもイキ狂わせてやる」

 二人にやりと笑い合い、唇を喰らい合い、赤いリボンを解いた。



end