23.お題@年の差ゾサで『全部全部、君のせい』

2015年04月07日 15:02
いつか形にしたかった間違い電話ネタ、半分実話。
 
 
 
 
 
 夜中の間違い電話が発端だった。

「だって、この番号はマリちゃんがずっと使ってたんだ」

 少し酔っているのか、微妙に舌足らずな掠れた声。

「おれだって学生の頃から十年、この番号使ってんだよ。ってか何度目だよ、こうやって間違う可能性あんだから、変な時間に電話なんかすんなよ」
「でもこの番号は……」
「あー! うっせぇ!」

 思いっきり通話を切り、枕元の充電台に受話器を乱暴に置いた。
 深夜二時の間違い電話。ここ数ヶ月で五度目だ。
 せいぜい三度も間違えれば諦めるだろう。なのにしつこいったらない。
 いい加減耳に残る、低すぎない、甘えたような艶のある声。
 くそ、と舌打ちをして頭から布団を被った。
 なんとなく気になりだしてから、ぱったりと間違い電話は来なくなった。とうとう諦めたのかとホッとするとともに、なんとも言えない虚無感のようなもの。もうあの声を聞くことはないのが、どうやら残念に思っている自分に少々驚いた。
 そしてランチのために会社を出、いつもの喫茶店に行こうとしていつものように知らない道に出る。それでもこういう時は当たりの店に出会すことが多いので、今日もまた目に付いた小さな喫茶店に入った。
 扉を開けると軽やかなベルの音が響き、カウンター向こうから「いらっしゃい」と声がかけられる。その声にはっと顔を上げると、グラスを磨いていた店主と目が合った。
 少し長い金髪を後ろで小さく束ね、長い前髪で顔半分を隠した煙草を咥えた男。口許の髭が小綺麗に整えられている。年は自分よりも大分上のようだ。
 なるほどコイツかと、つかつか靴音を立ててカウンターの席に着く。ランチタイムも終わりかけだからか、他に客がいないのが幸いだ。

「ランチでいいのかい?それともコー」

 言い終わらないうちにその胸倉を掴んで引き寄せ店主の青い目を覗き込めば、剣呑な光が浮かび上がる。

「いきなり喧嘩ふっかけるたぁ、最近のガキはどんな躾を」
「全部全部、てめぇのせいだ」
「あぁ?」

 今はまだ、全くの他人に向けたこの声を。

「マリちゃんなんか、もう関係ねぇんだろ?」
「……!」

 あの真夜中の電話のように、甘い色に変えてやる。

「こんな気持ちになったのは、てめぇのせいだ。てめぇだって、」

 最後はオレの声が聞きたくて、電話してきたんだろう?

 おっさんが真っ赤に照れるのを可愛いと思うなんて、全部全部、てめぇのせいだ。
 
 
 
end