19.First flight
2015年04月07日 14:51
満月の横を飛ぶ飛行機が羨ましかったので。
鉄の塊が空を飛ぶなんてとんでもねぇ。
そう言って散々拒否してきたが日程的に陸移動している余裕はなく、人生初の飛行機にサンジは渋々足を踏み入れた。唯一の心の拠り所である麗しきCAに鼻を伸ばす余裕もなく、席についてすぐにシートベルトをぎゅうぎゅうに締め、俯いて目を固く閉じてしまった。
左右二列三列しかない小さな飛行機だから、離着陸は結構揺れるだろう。飛行機を降りるまでこんな調子じゃ、身も心もガチガチで疲れ切ってしまう。どうしたものかと思案するが、全くもって何も思いつかない。
外を見るなんて言語道断だと言うから二列席の通路側に座らせて、サンジを挟んでCAに膝掛けをもらった。訝しげに上目でこちらを見るから、それぞれの膝にかけて肘掛の下、掛布をさり気なく重ねてそこに手を引き込み、ぎゅうと強く握ってやった。
びっくりして目を瞠り、ゾロの顔を確認してから見えない掛布の下の手を見るように視線が動く。サンジは繋がれた手を強く握り返してから、また固く目を閉じた。その様子に笑みが漏れる。
案の定飛行機は離陸時も浮いてからも、ガタガタと大袈裟に騒いでから漸く水平飛行になった。その間もサンジは微動だにせず、掛布の下でたった一つの手に強く縋るようにしてしがみ付いていた。
「おい、外見てみろ」
未だ緊張の解けないサンジに声をかける。サンジはふざけんな、と声に出さず手を更に強く握り返すことで抗議した。ふぅ、と僅かなため息にカチンときてしまい、ちらりとゾロの方を向いてしまう。
視界に入ってくる小さな飛行機の窓。
しまったと顔を背けようとするのを「いいから、ほら」と促すと、視界の隅に入ったのか表情が変わる。ぐいと窓の方に身を乗り出してくるから、席を変わるかと言えば小さく頷いた。幸いベルト着用サインは消えている。狭い空間でなんとか入れ替わった。
サンジは小さな窓に張り付いて動かない。先ほどゾロが見た景色を、同じような気持ちで食い入るように見ているのかと思うとなんだかくすぐったい。
今日は雲ひとつなく風もない、フライトには絶好の気象条件。
そしてとても大きな満月が出ていた。
飛行機から見る月なんて、なかなかない経験かもしれない。これで少しはリラックスしていられるかと安堵する。
窓に張り付いた自分だけの満月に、ゾロはくしゃりと手を差し入れて笑った。
end