2.猫のいる日(約600字)

2015年04月07日 16:08
 ふと、視界を黒が掠める。
 そうであるはずはないのに、愛した彼女を思い出して胸が痛くなる。黒猫はサンジをじっと見つめてから、顔を逸らして海へ向かって歩き出した。
 陽射しの強さとデジャヴに頭がクラクラとする。何を考える間も無く、黒猫の後を追った。
 喧騒が渦巻く港を抜け、やがて人気のない浜へと辿り着く。何もかもが彼女を無くした時を思い起こさせ、サンジの歩みを止めた。
 黒猫は振り返って彼の元まで戻り、ひらりとその腕の中へ飛び乗った。見上げてくる大きな目は、懐かしい金色に光る。

「……なぁ、お前、」

サンジの言葉を遮るようににぁと鳴き、黒猫は視線を進んでいた方へ向けた。
 少し先には、日向ぼっこのままの寝腐れ剣士が。
 サンジは猫を抱えたまま、砂を踏みしめ歩み寄る。軽い足音に、ゾロも薄らと目を開けて首を傾け、サンジを見て目を瞠った。
 が、すぐにいつもの仏頂面に戻った様が不自然で、サンジは訝しげに小首を傾げてゾロの元まで来た。

「……アイツがいるのかと思ったんだよ」

 ゾロも良く知る黒猫だ。ここにいると言いかけて、腕の中に何もいないことに気付いた。つい今しがたまで、温かな重みを感じていたはずなのに。

「ジャケットのボタンが、アイツの目に見えた」

 そう言って目を伏せたゾロも辛そうで、サンジは自分を抱きしめてその場に膝をついた。ゾロはゆっくりと起き上がり、サンジを抱きしめる。

「……いたんだ」
「あぁ。お前に会いに来たんだな」

 サンジはこくりと頷き、声を殺して泣いた。