13.【R-18】巡り愛(約5300字)

2015年04月07日 16:19
びっくりですが警官ゾロ×サンジーンという異色な組み合わせ。
フォロワ様数人と同じお題でそれぞれかいてみたものです。

「ジーン様がターゲットを殺し損ねたことで逆に命を狙われて日本に逃げてきて、そこで警察官のゾロと出会って警察を利用してやろうと企むもゾロを好きになってしまう話」

利用してやろう感もジーン様じゃない感も満載ですが。
ついったでは「ゾロジンかいてみよう」のタグで探せると思うので、興味ある方は是非!
それぞれのソロジンがほんと素敵です!!!
 
 
 
 
 
 オレは今、なんでこんなことになっているんだ?

 背丈は然程変わらないのに、自らよりも体躯のしっかりとした男に組み敷かれながら、サンジーンは自分のものとは思えないようなあられもない喘ぎをあげていた。



 殺し損ねたんじゃない。
 殺せなかった訳でもない。
 殺さなかったのだ。
 契約を違えたのは向こうの方だが、口頭で交わされた条件は言った聞いていないの押し問答になる前に、全てをこちらのミスにされた。
 女は殺さないと言っていたのに、ターゲットの詳細を偽ったのは向こうだ。いくら小細工をしても、どれだけ真に迫る演技をしても、スコープを覗けば全て分かってしまう。
 どんな理由があろうと、女は殺さない。
 それだけだ。
 ただ数の不利は拭えず、サンジーンがしくじったと噂を立てられれば、フリーで気ままにやっている身には払拭する術がない。それを利用し、契約違反を犯した連中が口を塞ぎにかかってきた。
 要するに、サンジーンを葬ろうとしたのだ。彼もよく知る腕利きを雇ってきたから、本気なんだろう。
 細々と逃げ回るのも性に合わず、奴が気付かない遠くにまで足を運んだ。だが向こうもプロだ。時間がかかろうとも、いずれ探し当てられるだろう。腹の立つことに、どうにも相性が合うのか合わないのか、奴とは顔を合わせることが多かった。今度も安心してはいられない。奴が辿り着くまでに、次の手を打たなくては。
 そうして遥々日本にまでやって来て、一息就こうと入ったバーで出会ったのがゾロだった。
 サンジーンはゾロを一目見て驚き、彼もまたサンジーンに一瞬言葉を失った。それは互いの姿が知った者によく似ていたからだと、後の会話で知ることになる。
 なんとなく隣り合って酒を飲み始め、一言二言交わすうちに確信を持ち始めたのは、サンジーンの方が先だっただろう。
 バーテンダーが何気なく漏らした「お固い公務員」というワードにゾロは苦い顔をしたが、彼の物腰や言葉尻から生真面目な部分が垣間見え、きっと失った片目も性格故なのだろうと思うと、ふわりと可愛らしさなんかが生まれてきた。自分の悪い癖だと自覚しているが、こういった類に弱い。
 それに、固い職種で性質もそれに付随しているような人間は、結構な確率で同じ匂いがする。それはサンジーンの中での個人的な統計であるが、そうだと思った相手にハズレはなかった。それを利用して、接近しての依頼遂行を果たしたことだって何度もある。
 サンジーンは確信していた。この男は間違いない、と。
 簡単な会話でゾロが、サンジーンの言葉の滑らかさに関心を寄せたのをきっかけに、仕掛けた。

「あんた、日本語上手いな」
「そう? 少しだけ、教えてくれた奴がいたからな。なぁ、オレの知らない日本語、もっと教えて?」

 酒が強くない自覚はある。だから、ギリギリの境界は何度も探った。本当に酔っていて、でも理性を保って、相手が目を離せなくなるような艶を載せられるくらいの酒量。
 サンジーンはゾロの指をつつ、となぞる。
 木を隠すなら森。逃げ回るよりも、寄生するのが手っ取り早い。
 寄生先はこの男に決めた。

「ベッドの中で……お前、いけるクチだろ?」

 そう言って指先をキュッと握れば、握り返されたのが合図だった。ベッドの上で主導権を握るのは簡単だ。相手を狂わせてやればいい。
 だが雪崩れ込んだ先で、サンジーンは思いもよらぬ快感に震えることになった。これまで具合のいい相手に出会うことはあったが、ここまで相性のいい相手は初めてだった。酒は許容量を超えていないはずなのに、驚くほど全身に回ったように何も分からなくなる。
 危険な匂いがした。もしかしてこれは、手を出してはいけない人間だったのかもしれない。
 頭の奥で警鐘が鳴る。溺れる前に止まらなければと。
 しかし体は快楽に正直で、求められるままに派手に啼き、意識を飛ばした。



 これは酒のせいだけではないだろうということは、昨夜の最中から薄々感じていた。いつもとはイレギュラーであったことも、一人ベッドの上で目が覚め、馴染んだ煙草の煙を肺に入れて人心地ついて冷静になれば、簡単にわかってしまう。
 これまで酒を入れても自我を保っていられたのは、それが仕事だったからだ。誘って、寝首をかいて、捨ててくる。そんな任務遂行の緊張感があったから。
 殺さなくていい相手と寝たのは初めてだったと、唐突に思い当たる。幼い自分をレイプした男の額に拳銃で穴を空けてから、この体に触れさせたのはターゲットばかりだった。それも最後にはサンジーンが始末するのだから、生きている者は一人としていない。
 身を隠すために利用しようとして引っ掛けた相手に、気を遣るまで翻弄された。殺す必要はないにしても、こちらの獲物であったはずなのに。
 最初に顔を合わせた時の軽い衝撃がいけなかった。知った顔によく似た、しかし幾許か若く精悍で一途な、あの顔。
 印象そのまま、ゾロは情熱的ではあるがとても丁寧にサンジーンを抱いた。大切なものを扱うように。それが初めてのことで、より快感に拍車をかけたのだろう。昨夜の自身の乱れようを思い出しては頭を抱える。
 生真面目な男は、酒の席で「宿がない」と言ったサンジーンの言葉を信じたのか電話番号と、簡単な英語でホテルの支払いを済ませてあること、仕事が終わったら迎えに来るので部屋で待機しているようにとメモしてあった。どこまでもお人好しだと笑いが漏れる。
 確かに全身疲労して動くことができない。丁寧であったとはいえ、朝方まで貪られたのだ。実際目を覚ました今はもう夕方で、カーテンの隙間から差し込む陽は赤い。
 これが暗くなったら、またあの男が来るのだろうか。
 そう思ったら、心臓が小さく跳ね上がった。じわりと肌が粟立つ。
 これはアレに似ている。
 見ず知らずの命を握っている時の、引き鉄を引く瞬間の、刃物で肉を裂く瞬間の、蹴り上げる足で骨を砕く瞬間の、奪う瞬間の高揚に。
 興奮している。ゾロがここに来ることを望んでいる。
 ただひとつ違うのは、不思議と温かいのだ。
 奪いたいと思っているのは間違いない。命ではない、何かを。
 サンジーンは初めての心境に戸惑いながらも、これはきっと、これまでの自分に足りなかった何かだとゆっくり自覚した。たった一晩肌を重ねただけの相手を、ターゲットではないからとその存在を大きくしてしまうなんてあまりにも単純だと分かっているけれど。
 これはきっと恋の始まりの部分なんだと、むず痒いながらも認めざるを得なかった。
 全部、アイツが優しくするのが悪いと責任転嫁しながら、再びウトウトと浅い眠りに身を委ねながら沈み込んだ。



 わりと大げさな物音に二度目の目覚めを促されるまで、部屋にゾロが入ってきたことにも気付かなかったことに驚いた。少しだけ気を許してしまったら、こんなにも自分は無防備になるのかと愕然とする。
 のそりと上体を持ち上げると、シーツに包まれた足元に固く重いものが投げ出された。隣り合って未使用のシングルベッドに腰を下ろしたゾロの顔は、眉間に深いシワが寄って険しい。隻眼がキラリと光る。

「……長いこと扱っていると、硝煙の匂いってのは染み付いて消えなくなる」

 サンジーンの指先から微かに感じた匂いに疑問を持ち、眠る彼のジャケットからコインロッカーの鍵を持ち出し、荷物の中から分解して各所に隠された部品を組み立てると銃になった。
 嫌な予感は当たったと、硬い表情のままサンジーンを見て言った。

「あんた、何者だ。何をしに日本へ来て、おれに近付いた」
「……お前はポリスだろ? 思ったより鋭くて参ったな。真面目で感がいいなんて、出世しないぜ?」
「何を企んでる」

 起き上がって座り込み、ゾロと向かい合って煙草に火を着けた。首筋や胸に昨夜の情痕が赤く散っている様がゾロの視界に入り、目が眇められる。
 サンジーンはそれを見て、にやんと口端を歪めた。

「ならお前は、オレに不審を抱きながらどうして抱き続けた?」

 あんなに大切に、慈しむように。愛しささえ自分のものなのではと勘違いさせるような抱き方を。

「お前、オレを誰かの代わりにしただろう。情が移って捕まえられなくなったか」
「こっちの質問に答えろ。このまま手錠をかけてしょっ引いでもいいんだぞ」
「やるならさっさとやれよ。もうオレは殺し屋廃業だ」
「ぁあ? どういうことだ」

 サンジーンは銃をベッドから蹴り落とすと、煙草を灰皿に押し潰した。ゴトンと重い音を立てて転がった銃には目もくれず、隣のベッドのゾロへとにじり寄る。
 乱れた金糸から覗く目が、ふっと柔らかく細められた。腿に、片手が掛けられる。じわりと滲む熱と、重みが、昨夜をじりじりと彷彿とさせていく。

「お前の……」

 近付いた顔が、ゾロの目を潰した傷にそっとキスを落とした。

「お前の気配に気付かないほど絆されちまったオレは、もうプロとして使いモンにならねぇんだよ。そうなったらこれ以上逃げ回るのも無理だし、ただ殺されるくらいならお前の手でどうにかしたらいい」
「殺される?」
「同業の奴なんだけどな、昔から熱烈なプロポーズを受けてたんだ、お前はおれが殺してやるって。とうとうその機会が巡ってきたんで、奴は嬉々としてオレを探してるのさ」

 ゾロの瞳が微かに曇る。

「そいつとは、寝たのか」
「いいや?」

 サンジーンが肩を押すと、ゾロは抵抗することなくベッドに倒れこんだ。

「オレの深くにまで触れて生きているのは、お前が初めてだ」

 全裸の白い体が伸し掛かり、噛み付くようなキスが降ってくる。ゾロはそれを受け入れ、応え、何度も舌を絡めて歯を立てた。薄い肉を喰むと、上になった体がぶるりと震え、金の間から覗く青が滲み出す。
 堪らずに体を入れ替え、晒されたままの中心を掴むと既に硬さを持ち始めていた。赤みを帯びた唇の奥から、切ない溜息が漏れる。

「お前、アイツに似てるんだ」

 だから目が離せなかった、と。

「おれはソイツの代わりか?」
「どうかな。仕事以外で誰かと寝たことはないし、ましてやアイツと寝るつもりはさらさらなかった。けど、不思議とお前ならいいと思えた。いや、お前がよかったんだ、きっと」

 そろりとゾロの股間に触れると、こちらも興奮の色が載って膨らみ始めていた。

「お前こそ、オレに誰かを重ねてたくせに」
「お、れは……別に……」
「嘘つくの、ヘタな」

 ふわりと笑ったサンジーンに、ゾロは観念したように口を開いた。

「キンキラ頭と青い目が似てて、始めて見た時びっくりしたんだよ。アイツは根っからの女好きで、おれが一方的に想ってるだけだ。ずっと大事にしてた女と、先日ようやく結婚した」
「あぁ、だから優しかったんだな、お前」

 大切に、大切に。だけど情熱的なその愛し方は、嫉妬さえ覚えるほどだった。

「あんたに、おれの都合をぶつけた。悪かった」
「はは、ホントクソ真面目な。オレはもう、恥ずかしいくらいお前に溺れてる。抱き捨てるも、ポリスに突き出すも好きにしたらいい。アイツに見つかったら、どの道オレは終りだ」

 静かに目を閉じたサンジーンを前に、ゾロは大きく息を吐いた。
 自分が今から何を言おうとしているのか、しようとしているのか。
 自分の立場であるとか、彼がこれまで何をしてきたとか。
 深く考えてはいけない。ここまで来てしまったのだ、後には引けない。

「もう、あの物騒なものは手にしないと誓うか?」

 視線は床に転がる銃をちらりと掠める。
 ゾロの言葉に目を開けたサンジーンも、目線を追って同じものを確認した。

「この先二度と罪を犯さないと、おれに誓えるか?」
「なんのことだ」
「いいから!」
「……何もしようがない、オレは殺し屋としてはもう死んだも同然だ。お前がそれを必要とするなら、オレはお前に誓うよ」
「なら、おれはあんたを守ろう。あらゆる手段を講じてでも」

 瞠目したサンジーンから、決まり悪そうにゾロは目を逸らせる。

「そう思っちまったくらいには、おれもアンタに絆されてんだよ」

 少し赤い耳が、自分に向けられたものだと思うと堪らなくなる。
 サンジーンはゾロの首に腕を回して引き寄せ、再び唇を塞いだ。何度も何度も合わせを変え、溢れる唾液を気にする余裕もなくなるくらい、ドロドロに貪り合う。
 荒い息を吐きながらゾロは身につけていたものを性急に脱ぎ捨て、サンジーンの秘奥に指を忍ばせた。昨夜の名残と火のついた体が、内部を熱く沸き立たせている。
 興奮の色を濃くした様子に気付き、サンジーンは殊更妖艶に笑いかけた。

「ホントのお前を見せろよ。遠慮なしに、本気でぶつかってこい」
「……壊れんなよ」
「ハッ、上等」

 引き抜いた指をぺろりと舐めあげ、ニヤリと笑う顔は昨夜とはまた違う迫力と色気がある。サンジーンはぞくりと背を震わせた。
 ぐいと膝裏に手をかけられ、ハッとあることに気付く。

「タンマ。大事なことが抜けてる」
「あぁ!? なんだ、ここまで来て」
「名前、教えろよ」

 一瞬呆気にとられたゾロが、次の瞬間には大口を開けて笑っていた。

「そうか、おれたち、そんなことも知らねぇでこんなに盛り上がってたのか」
「昨日は二人とも、必要なかったってことだ。でも今は、名前呼びながら、イキてぇ」
「あぁ、ゾロだ」
「前の名は捨てた。ジーンと、呼んでくれ」

 啄むようなキスを交わし、ゾロが白い脚を抱え上げる。

「こいよ、ゾロ」
「へばんなよ、ジーン」

 ベッドが、軋んだ。



end