7.【R-18】暑い日、大きな赤い花(約6000字)

2015年04月07日 11:15
なんか会話の流れで「ぐっちゃぐちゃ」書く羽目になったけど、
技量足りずで「びっちゃびちゃ」止まりなただのエッチしてるお話です。
ギャグにしたかったけど、なんかしんみりしちゃいました。
 
 
 
 
 

「あんのクソゴムめ……」

 頭からびっしゃりと水を被り、煙草もダメになった。
 サンジをそんなことにした張本人は何も気付かず船を飛び出し、あっという間に次の冒険へと行ってしまった。

「何してんだ、お前」
「あぁ!? 見て分かんねぇのか。船長が水ひっくり返してったんだよ」

 誰が置いて行ったか分からない水の入ったバケツが、キッチンを出た途端に降ってきたのだ。
 キッチンの上はウソップとロビンの花壇があるから、きっとどちらかが水遣りの為か何かで用意したまま忘れていったのだろう。

「ずぶ濡れだな、こりゃ」

 今日は色々洗濯してしまい、ラフな白いTシャツしか残っていなかった。濡れた生地が肌にぴったりと貼り付き、着痩せするしっかりとした筋肉を浮かび上がらせている。
 ゾロは気付かれないように、僅か視線を逸らせてキラキラした頭を指差した。

「だからそれ、何やってんだよ」

 指摘されたのが濡れたことではないことに気付き、サンジは「あぁ」と言葉を漏らした。

「なんかルフィが見つけてきて、強引に髪に挿してったんだよ。訳分かんねぇよ、アイツ。何だっけ、この花。夏島でよく見かけるよな」
「……ハイビスカス」

 え、と火の消えたままだった煙草を口から落とす。ゾロが花の名を知っているとは驚きだった。
 だがゾロにしてみれば、先を越されたと思ったのだ。前の夏島で見かけた時、似合うだろうと思った。この太陽のような金の髪に、柔らかな大きな赤。
 ルフィがロビンに、その花の名前を聞いていた。寝た振りをしていたわけではなかったが、起き上がるタイミングを逃した。そのうえで聞こえてきただけのこと。
 でもまさか、ルフィも同じことを考えていたとは。
 ゾロは髪から花を抜き取り、手摺にそっと置いた。
 髪から垂れた雫が手の甲を伝う。濡れると緩く弧を描くように癖の出る金糸は、水を落とすと先をぴんと跳ねさせた。
 その様に一瞬目を奪われ、タイミング悪く青い目がゾロに向いて眇められる。

「なに」

 じわりと汗が浮かんだのは日差しの暑さだけだろうか。
 尚もぽたぽたと落ちていく水滴が絶え間無く白い首筋から鎖骨を這い、シャツに吸い込まれていく。それを目で追う様を、もう隠そうともせずにゾロは無言で眺めていた。
 訝し気に小首を傾げ、サンジは襟ぐりに指をかけて濡れた生地を肌から引き剥がす。

「うえぇー、くっついて気持ち悪ィ」

 その場でTシャツを脱いで無造作に頭を拭き、軽く絞ってから手摺のハイビスカスの横に開げて掛けた。
 赤い花と、白いTシャツが並ぶ。それに視線を奪われていると、靴音がキッチンの中へ向かっていた。白い背中が室内へ翳っていく。視界に焼き付いた花の赤が、背に載った。
 ぶわっと体温が上がる。ゾロは背を追ってキッチンへ入り、扉を後ろ手に閉めた。
 サンジはカウンターに置いてあった煙草を手にして火を点け、先程水でダメになってしまった一本を供養するように味わっていた。それを咥えたまま冷蔵庫を覗き、ドリンクのボトルを手にしグラスに氷を放り込む。
 いつもゾロの鍛錬中に差し入れるものだ。こんな暑い日の水分補給にも都合がいい。

「飲むだろ」

 調理台に氷の入ったグラスを二つ、それぞれに注ぎながらサンジの目線がちらりとゾロを見、少々うんざりと伏せられた。

「暑いなら脱げば?」

 驚く程汗を浮かび上がらせ滴らせている様に、呆れたような言葉を投げつける。
 ゾロは「あぁ」と短く答えてから着ていたシャツを脱ぎ、それで額の汗を拭いダイニングのスツールへ放った。サンジがダイニングへ回ってくる前にキッチンへ行き、直接グラスを受け取ると一気に呷る。
 喉越しの良い液体が食道を冷やしながら下っていくのが分かる。それで少しでも熱が引くかとも思ったが、どうやら逆効果だったようで、籠った熱気に充てられて汗はじわりじわりと滲み続けた。

「なんだ、随分暑いと思ったら扉閉めやがったな、テメェ」

 風が流れねぇ、と文句を言いながら向きを変えたその背を後ろから抱き込んだ。

「……暑苦しい」

 機嫌の悪い声だ。だが構うものか。
 合わせた肌が汗でぬるりと滑る。項に唇を当て軽く吸い付くと、腕の中の体が微かに身動いだ。
 それだけの反応で、コレは大丈夫だ、と分かってしまう。
 ゾロは舌を出し、背骨に沿って下へと這わせていく。

「しょっぺぇ」

 舌を当てながら器用に言葉を紡ぐ。肌に直接響く声音が、ゾクゾクとしたものをサンジの背筋に走らせた。

「離せ」

 思ってもいないくせに、と口角を上げながらゾロは尚も骨をしゃぶるように舌で舐る。肩甲骨へ噛み付くとくぐもった声を飲み込みながら背を逸らせた体を、逃がさないように抱き込む力を強くした。
 ここに、咲かせる。強く強く吸い上げじゅっ、と濡れた音をたてて唇を離すと、そこには大きなあの花と同じ色が載っていた。
 物憂げに首だけで振り返る口許には、まだ煙草が咥えられている。それを摘んで落とし、靴底で踏み消すと脇腹に肘が飛んできた。
 モロに入ったが拘束を解く程ではないのが、コイツの甘いところだと胸の内で笑う。

「てんめェ、キッチン汚すたぁどういう了見だ」
「あとでまとめて掃除すりゃあいいだろう。どうせ汚れんだ」
「汚す気かよ」
「汚すのはおめぇのだけどな」
「あ、てめっ」

 言いながらゾロの手は器用に素早くズボンの前を寛げていく。サンジが抗議の為に身を捩ると、互いの肌が汗でぬめって容易にゾロと向かい合った。
 何かうるさい言葉が聞こえてくる前に、ゾロは開きかけていた口を塞いで舌を差し込み栓をする。奥まっている舌を強く吸い上げてやれば簡単に応えてくる。鼻から抜ける吐息が熱い。おそらくもう、頭の芯は溶け始めているだろう。
 料理中は平気な顔をするのに、それ以外では滅法熱さに弱い。外からも、内からも。
 目許にじわりと赤味が差し始めたが、睨んでくる青は溶け切るのにあと少しといったところか。
 お互いに目を閉じることなく視線を合わせたままの口付けから解放すると、気の強い貌が不機嫌そうに歪む。

「熱っちィんだ、さっさと済ませろよ」
「……まったく素直じゃねぇよな、てめぇはよ」
「あぁ!? なんか言ったかよ」
「いんや。だったらオラ、ケツこっち向けろ」

 喉の奥に笑いを押し込め、ゾロは再びサンジの体をくるりと返してシンクに手をつかせた。中途半端に開いていたズボンを下着ごとあっさり引き下げるとすぐに、立ち上がりかけていた陰茎を強めに握り込む。
 う、と僅かに息を詰めた声とともに腰が揺れる。

「おーおー、ここも随分と汗かいてんな」

 ぐちぐちと音を立てながら意地悪い声音で耳元に囁くと、シンクに着いた手がぐっと握り込まれた。かと思うと腰が突き出され、白い双丘の間にゾロのモノを嵌め込んで、擦り付けるように軽く上下する。
 布地の上からでも股ぐらがいきり立っているのがよく分かった。

「こっちも随分と苦しそうだけど?」
「ほーぉ、どうやら泣かされてぇらしいな?」
「やってみろよ」

 ちらりと視線だけを後ろに回し、青い眼が不敵に微笑う。ぐん、と熱が上がる。
 獣の煽り方をよく知っている。
 ゾロは手の中のモノを緩急つけて扱きながら、先程自身が飲み干したグラスの中身を空いた手に取ると、それを擦り付けてきた尻の奥にピタリと充てた。

「ヒッ」

 短い引き攣った声が漏れ聞こえる。

「テメっ……ふざ、けんな……!」
「あぁ? 熱っちィんだろ?」

 窄みに押し付けられた氷は大分溶けて角が無くなり、冷たさに硬く閉ざした口に力を込めて押し進めてやると、驚く程すんなりと飲み込まれていった。

「ヒァッ……!」

 急に体内へ侵入してきた異物の違和感と温度に、白い背が大きく仰け反る。
 先程咲かせた小さな赤い花が視界を走った。

「……足りねぇな」

 聞かせるつもりのない小さな声で言いながら、汗が流れる背に吸い付き次々と赤を落としていく。その間も手の中の雄を扱き、溶けていく氷を押し込み、これまでにない感覚で腕の中でのたうつ体を苛んでいった。
 最後の氷とともに指を一本、つぷりと射し入れる。奥へ運んでやる間に、氷はみるみる溶けてすぐに触れなくなった。軽く掻き回すと溶けた水がぐじゅりと音をたてる。
 指を引き抜くと、口を付けていなかったサンジのドリンクにまで手を伸ばし、一気に呷った。項垂れる顎を取って後ろを向かせ、口付けて流し込む。
 初めこそ喉を上下させ飲み下していたようだが、次第に追いつかなくなり苦しそうに呻き始めた。そんな時に再び氷を詰め込まれ、軽く咽せて飲みきれなかったドリンクが口端から溢れ出た。顎を、喉を、胸を伝い、だらだらと床に溜まっていく。
 ゾロは氷を全て飲み込んだ孔に指を二本滑り込ませぐいと広げると、いつの間に解放していたのか、熱く怒張した雄をぴたりと指の間に宛てがった。金糸に見え隠れする白皙の項に歯を立てる。

「イイ声で啼けよ」

 刀を咥えても難なく喋ることのできる口だ。低く掠れた声が、歯を伝い、皮膚を震わせ、脳髄に響いていく。
 ぴり、と思考が痺れた瞬間、熱い杭が穿たれた。

「ッは、ああぁぁ……!」

 まだ形を保っていた氷が奥に押し込まれる際、快感の強い一点を擦っていく。同時に雁首の先端を強く刺激してやると、堪える間もなくゾロの手の中に吐精した。熱くて掌が灼けるようだ。
 サンジの中も同じように熱く、氷の冷たさも分からぬうちに全て溶解してしまい、抜き差しを繰り返す度にじゅぶじゅぶと音を立てながら水が溢れていく。いつもの粘着質な体液と違って、さらさらと腿を伝って流れ落ちていくそれはサンジの肌をくすぐり、言いようのない羞恥心を搔き立て更に熱を上げた。

「……はぁ、はっ……あ、」

 獣の交尾のように項に噛み付いたまま揺する度に、吐息のような声が零れ耳に心地良い。
 だがさすがに暑さも限界にきているらしく、次第にそれは譫言のような一言を繰り返すようになる。

「あ、ちィ……熱っちィ、クソ……」

 息も大分速くなってきて、このままではイク前に意識を失いかねない。ゾロは律動を少し弱め、シンクにサンジの頭を押さえ付けた。
 朦朧とし始めた中での突然の暴挙に舌の回らない抗議の声を無視し、カランのコックを一杯に捻った。始めは温く、次第に冷たくなる水がキラキラの頭をしとどに濡らしていく。
 言葉のなくなった様子に背後から覗き込めば、どうやら思った以上に気持ちがいいようだった。おこぼれを預かろうと、ゾロもサンジの上から頭を割り込ませて水を浴びる。周囲を覆っていた熱気が一気に冴え渡り、心無しか呼吸も楽になった気がした。
 水を止めて体を上げると、サンジも元のようにシンクに手を着く形で上体を起こす。水がダラダラと髪から流れ、顔を上げる気にならないらしい。

「……いきなり何しやがる」
「ぶっ倒れるよりいいだろ」
「誰がだ。そんな柔じゃねぇ」
「半分飛びかけてやがったくせに。口の減らねぇヤツだ」
「うっせ」
「う」

 ぎゅうと締めつけられ、思わず声が出た。
 ほんの少しだけ悔しそうなサンジの声が届く。

「テメェなんか、ちんこもげてしまえ」
「おう、やってみろ。指なんか届かねぇずっと奥に置いてきてやる」

 自分で言っておきながら一瞬想像してしまい、サンジはぞくりと背を震わせた。その背にゾロは尚も吸い付いて赤を増やしながら、後ろから片足を掬い上げて突き込みを再開する。先程よりも深くを抉られ、サンジは喉を反らせて身震いした。
 深く、強く、繋がっている。上がる声がもう止まらない。
 前も後ろもぐちゃぐちゃに昂り、結局いつものように何も考えられなくなっているだろうサンジの腰を何度も何度も追い上げ、二度目の射精と鋭い快感の中に意識を飛ばした様子を見守る。
 先程の言葉を実行したのかと思う程の強烈な締め付けを受け、軽く痙攣しながら微かに呼吸が止まっているサンジの最奥に、叩き付けるように欲を放った。灼けるような熱を体内に受け、不足した酸素を取り戻すようにはくはくと口を動かしていたサンジが覚醒する。

「……熱っちィ。クソッ、早く抜け」

 名残惜しいが、これ以上は互いにぶっ倒れてしまうだろう。
 最後の悪戯というように、殊更ゆっくりと時間をかけて抜いてやると、高い声を上げながらビクビクと全身を痙攣させて床に崩れ落ちた。

「しねっ、てめ、クソ……」

 涙目で睨み上げてくる様が可愛くて仕方ない。青はすっかり蕩けている。
 そのまま床に横たわったまま起き上がる様子がないのは、きっと冷たくて気持ちいいのだろう。
 ゾロはカウンターの上にあった煙草を咥えて火を点け、それをサンジの口許へ運んでやった。黙って受け取り、思うままに味わう。一服して少し気力が回復したのか、ゆっくりと体を起こしてゾロを見上げた。

「さて、好き勝手やってくれたアホマリモに当然のお仕事です。とっととオレを風呂場に運んで、ここをピカピカに磨きやがれ」
「てめぇもノリノリだったじゃねぇか」
「うっせぇよ。なんか知らねぇがやたらとねちっこく背中に痕付けやがって」

見ていないが、なんとなく分かる。
きっと白いTシャツが乾いていても着られないのではないだろうか。

「なんだ? なんかあったのか?」
「……簡単に誰でも懐に入れてんじゃねぇよ」
「……は?」

 自分で言いがかりだと分かっている。だけど、先を越されたことに不甲斐なさを感じてしまって、どうにも治まらなかった。
 それがルフィだから仕方ないとも思うし、ルフィだから許せないとも思う。

「何のことだ?」

 何より、花を受け取って嬉しそうにしていたサンジに、嫉妬したのかもしれない。
 そしてこの男はきっと、ゾロがこんな風に想っていることなんて気付かない。
 でも。

「ん」

 怪訝な顔をしたものの、きっと「藻類の考えることはわからん」とでも結論づけたのだろう。サンジはゆるゆると下肢に衣類を纏うと、ゾロに向かって両手を広げた。担いで風呂場へ連れて行けということだ。
 ゾロの抱える想いなど分からずとも、こうして他に見せない姿を晒して甘えてくるのは、ゾロにだけなのだ。
 今は、それを大事にしていけばいい。
 少し屈んで口許から煙草を奪い、啄ばむようなキスを落としてからタバコを戻す。それからひょいと肩に担ぎ上げて、何も言わずキッチンの扉を開けた。
 暑いのは変わらなかったが、微かな風が流れて心地良い。すっかり乾いたらしいTシャツを手摺から取り上げると、横に置いていた萎れたハイビスカスを引っ掛けて赤が落ちて行く。なんとはなしに目で追っていると、不意に強く吹いた風が攫って行った。
 赤は船縁を超えて見えなくなる。

「どうした?」

 動きの止まったゾロを覗き込むように顔を上げるが、サンジからは何も見えていない。
 ゾロは赤い花が散るその背をそっと撫でた。

「いや、なんでもない」

 そう言って風呂場へ足を向けた。



end