4.【R-18】Bite(約3300字)

2015年04月06日 13:11
なんか急にえろが書きたくなったけど、えろいかどうかよくわからない。
どっちも好き過ぎてどうにかしたいけど、ギリギリの理性で抑えるゾロと、堪えきれないサンジ。
衝動のままのサンジが書きたかった。
 
 
 
 
 
 酔わなきゃ本心を曝け出せないヤツだっている。
 況してやこんな関係だ。素面でいると、不意に頭の芯が冷めることがある。
 ヤリたくない訳じゃない。
 飲んだら酒のせいにできる。
 それだけだ。



 * * * * *



 堪らずにがぶりと歯を立てる。
 声を抑えているわけではないが、喉の奥から迫り上がる熱い吐息は歯の隙間と鼻からふうふうと漏れていく。
 肩に咬み付かれた男は痛みなど感じていない風で、両手で鷲掴みにした己よりも細い腰を夢中で上下に揺り動かしていた。突き上げる度に咬み締める力が増していく。そこで漸く男は肩口の痛みを意識し始め、殊更強く奥を抉ってやり動きを止めた。
 強い刺激に奥歯まで力が入り、犬歯が当たっていた皮膚にぷつりと穴が空く。
 軽い到達感に何度も小さく身震いをするが、歯を立てたまま呼吸を整えようともせず荒げているせいで、唾液がだらだらと日に焼けて締まった肌を伝い落ちていく。咬み破られた皮膚から滲み出る血液が唾液と混じり、目を凝らさなければ分からない程の赤が胸の傷に辿り着くと、ぷくりと微かに盛り上がった長い疵痕に沿ってじりじりと下へ向かった。
 いつまでも口を離さない白い体を宥めるように、片手がそっと尻を撫でてから少し上にある背の疵に触れた。腕の中でびくりと震える体はそれでも口許を緩めることはなかったが、触れられた指の動きに意識を向け始めているようだ。
 皮膚の硬くなった指先で何度も疵痕を往復し、その周囲をそろりと円を描いて撫で回す。指が動く度に体は小さく戦慄き、繋がったままの後ろに響いてにじにじと疼きが増した。背骨に沿って指先がゆるりと這い上がっていく感触に全身が粟立っている。
 時間をかけて項まで線を引いてやれば小さく声を出しながら、緩んでいた口許を完全に解放して背を仰け反らせる。逃げていく上体を項に触れていた手で押さえ込み、今度はこちらの番とでも言うように誘うような首筋へ大きく口を開けて歯を当てると、それだけで弛緩しかけていた四肢はぎくりと強張った。
 歯で軽く挟み込んだ肉を舌先で何度も擦り上げてやれば、捉えた動脈が煩い程に暴れて舌を叩く。


 ここを咬み千切れば、これは自分のものになる。


 肌を併せる度に擡げる甘美な誘惑。一瞬でも気を抜けばこの肌に立てている歯がトラバサミとなって、首をへし折る程に貪るだろう。
 毎度の衝動と幻想をその身に押さえ付けぐっと更に歯を押し当てるに留めると、白い喉の奥で空気を吸い上げる掠れた高い声が小さく鳴った。脅えたような声音を楽しんでから、きつくきつくそこを吸い上げて真っ赤に鬱血させることで自身を落ち着かせる。
 緊張が解けて撓垂れ掛かってきた体を抱き寄せてやれば、先程自分がつけた肩の咬み疵をぺろぺろと舐め出した。顎をとって促してやると従順に唇を寄せる。珍しく乱暴に差し入れてくる舌は薄らと血生臭いのに、鼻から抜けるのは無機質な鉄の味だ。
 黙って受け入れていれば物足りないと、がちりと歯を当ててくる。本人に自覚は無くとも仕種のひとつひとつが艶めかしくどこまでも雄の性を煽り立ててくるのに、キスひとつ強請るのにいつまで経ってもガキくさい動きで、そのギャップがまた身の内に火を灯す。
 咥内で一人遊びをしていた舌を己のもので誘って吸い上げ、根元へ強めに歯を立ててやればくぐもった声が鼻から抜けていった。歯の力を入れたり抜いたりを繰り返してその弾力を楽しんでいると、徐ら腕の中で腰が蠢き出し思いの外激しく上下を始めた。
 ずっと後ろに入ったままで、堪らなくなったのだろう。舌を捉えられたまま男の首に両手を回し、懸命に自ら腰を揺り動かす。
 息苦しさに唇を離すものの舌は硬い歯に挟まれたままで、体が振動する度に舌の付根が締めつけられてびりびりと痛みなのか痺れなのかわからない感覚に呻いた。閉じることのできない口端から唾液が、母音しか発せられない言葉とともにだらしなく零れ続け、短い呼吸が息苦しさを増長させ、酸欠のように頭の芯を融かしていく。
 不意に男と視線が絡み合うと後ろで銜え込んでいる部分がきゅうと締まって、金糸の中の薄い青がとろりと流れた。
 一連の総てが扇情的で婉然としているのに、何度姿態を暴いても無垢で素直な反応が返って来るのが不思議でならない。
 そしてまた、舌を、口を支配されて動かすこともままならないのに、喉の奥で健気に言葉を紡ぐのだ。
 「もっと」と。
 到底聞き取れない一言なのに、はっきりと伝わってくる。もっと欲しい、もっとして、と全身で訴えかけて来るのだ。
 男は首に回っていたしなやかな腕を片方、とっくに立ち上がって震えていた中心へ導いてやると、そろそろと自身を握りこんだ白い体が戦慄いた。そうして男は己よりも細く頼り無気な腰を両手で押さえ込み、衝動のままに再び律動を開始する。



 咬まれたままの舌は上下に揺すられる度にぎりぎりと挟み込まれ、喰い千切られるかと思う程に歯が食い込んでいた。
激しい動きに身を任せたままできるだけ振動が舌に伝わらないようにと、男の首に回した片腕に力を込めて締め上げ、自身を握り込んだ片手は欲望を吐き出さんが為に淫らに蠢き、ぐずぐずに蕩けていく下半身を持て余す。
 快感の奔流に呑み込まれながらも、もっと強く、もっと深く、もっともっとと、喉の奥で譫言のように繰り返す自身をどこか一歩引いたところで眺めているもう一人の自分に気付く。
 男に穿たれている白皙の肢体はうち震え、だらしなく融かされた下肢は浅ましくくねり、絡み付き、まるで蛇のようだ。首に回した腕は鍛え上げた男の喉元を絞め上げ、捉えられているはずの舌は逆に男を絡め取ろうとどこまでも伸びていく。うねうねと蠢き、誘い、捉え、貪る、賤しいケダモノがそこにいる。
 あれが、本心だ。
 全身を使って、男に枷をはめて、抱き込んで、身動きをとれなくして、自分だけのものにしてしまいたい。
 このまま絞め上げて、抱き殺して、屠ってしまいたい。
 骨の一片も残さずに、この身に取り込んで、溶け合えてしまえたらと想像し、頭の芯が震える。
 碌な下拵えもなしに、ただ喰い尽くしたいと思っている自分の欲望に胸の底で嘲笑した。どうしようもなく欲してしまうのだ、目の前の男を。
 先刻口にした血の味を思い出して心臓が高鳴る。あのまま肩を、肉を、喰い千切ってしまえたらよかったのに、と。そう思ってつけた咬み疵が、男の引き締まった体にはいくつかあった。本気で喰らおうとするのに、いつも男の甘い愛撫に溺れてしまう。
 今だってほら、達してしまうその直前に男は歯を離して、咬んで虐めていた舌を労るように舐り優しく吸い上げ、白い指が絡んでいた前をその手ごと握り締めて扱きあげ、残った手で腰を押さえ込んで最奥を乱暴に抉って、そうして甘い甘い極上の快楽を与えてくれるのだ。
 飲み込みきれないくぐもった嬌声を零し、意識を飛ばしてしまうほどの、絶頂を…。



 腕の中でくたりと弛緩した体を抱き留め、捉えていた舌を解放すると、唾液といつの間にか流れていた涙でぐちゃぐちゃになった顔があった。そのどちらも丁寧に舌で舐め取る。
 全部きれいにすると首筋に舌を這わせ、赤い印にもう一度唇を落とした。そのまま肩まで伝い舐め、自分がつけられた咬み疵と同じ場所に歯を当てる。僅かに逡巡し、首筋と同じにきつく吸い上げて真っ赤な痕を残すに止めた。
 この白い肌に己の獰猛な牙を突き立て、喰らい尽くしたい激情。身の内に渦巻くこのどうしようもない欲望を、自分の腕の中にすっぽりと収まってしまう痩身が同じように抱えているのかと思うと、それだけで心が震える。
 愛しくて愛しくて、それが高じて傷付けたくなるなんておかしいと思うが、寸でのところで留まっていられるのは同じ想いをぶつけてこられるからだ。自分の想いを具現化するように、思った通りに牙を剥いてくるこのケダモノが愛おしくてたまらない。
 これが酔った末の行為でもいい。
 酔うことで、酔った振りをすることで本心を曝け出してくれるなら、それでもいい。
 出せるようになっただけマシだ。素面でいたら決して甘えてなどこないのだから。
 いくらでも、喰らうといい。
 求めて、歯を立て、喰らい尽くせ。


 おれが、おまえを喰っちまう前に。



end