5.おいしいコックさん

2015年04月07日 14:16
5/9はコックの日と聞いてしまったので、急遽捻り出したものですが。
雰囲気的なものなのでさらっと読み流して頂ければ。
 
 
 
 
 
 食いてェ奴には食わしてやる。

 

 確かにそうは言ったが。それは料理であり、食材の話だ。
 なのにヤツときたらオレの作った料理そっちのけで、何故調理者に手を出す?

「料理も美味いが、お前が一番美味い」

 なんて、どこのエロオヤジのセリフだよ。

 それでも。
 両手を合わせて「いただきます、ごちそうさま」を欠かさないところとか。
 頬袋をパンパンにしてがっつくところとか。
 決して残さないでキレイに完食するところとか。
 料理人の萌えツボを知ってか知らずかついてくるのが小憎たらしい。

 それでも。
 料理が二の次にされるのはやっぱり腹立たしい。
 料理なら、食材なら、どんな手段を講じても美味く食わしてやる自信がある。
 それが果物ひとつ、木の実ひとつであっても。
 なのにオレの料理以上に美味いものがあるというお前が腹立たしい。

 それでも。
 調理中は決して邪魔をせず、作業が終わるのをじっと待っているお前をかわいいと思ってしまうのに。
 料理人であることの矜持を尊重しつつ、オレの料理を蔑ろにするお前はとんでもない悪魔だ。
 そうやってお前はオレを抉り続ける。

 それでも。
 オレは料理を作り続ける。
 お前に食わせる為に、お前を喜ばせる為に。
 お前は料理の完成を待って、オレに手を伸ばしてから、料理を食う。
 料理は出来上がってすぐ、温かいうちが一番美味いから。
 だからすぐ食って欲しいのに。

「調理を終えた直後のお前が、高揚して熱くなってるお前が一番美味そうだ」

 ああ、もう。なんでこんなヤツにいいようにされてるんだ。
 冷めていく料理を視界の端に捉えながら、それでも後にコレを美味そうに食うお前の姿が浮かんで胸が、体が熱くなる。
 オレの料理じゃないものを一番美味いと言うお前なんて

「大キライだ、クソ野郎」

 それでも。
 そんなことを言うオレをやっぱりお前は美味そうに食うんだな。
 ちゃんと残さず食うから、またオレは料理を作るんだ。
 お前の為に。
 お前が食いたくなる料理を。
 お前がオレを食いたくなる料理を。
 作り続けるんだ。

 オレはコックだから。

 食いてェ奴には食わしてやる。



end