4.Charge

2015年04月07日 14:15
サンジ誕生日2014
テーマはチャージ(充電・溢れそうなほど一杯にする)とハグ!
 
 
 
 
 
「おーし、終わった」

 朝食の仕込みを終えたサンジは、煙草に火を着けてゆっくり吸い上げた。カウンターで酒を飲むゾロを視界に収めながら、心持ち斜め上にふーと煙を吐く。瓶の中の酒もつまみもあと半分は残っているようだ。
 サンジはキッチンをぐるりと移動してゾロの背後へ回り、背中合わせに体を預けた。カウンターの腰掛けパイプに座ると若干位置が高くなるため、サンジの頭はゾロの肩に丁度いい具合に乗る。
 ゾロは背中に心地よい重みを感じながら、視界の隅に入ってきた金色に手を伸ばし、サラサラと零れる髪の一束を人差し指に巻き付けた。
 サンジはそのままタバコを吸い続ける。
 背中からじんわりと互いの体温が伝わり出した。
 息を潜めると、微かに心音まで感じられる。呼吸を調節し、拍動を合わせてみる。

 とく とく とく

 三回重なった。
 サンジの口許がふっと綻びそうになったとき、合わせていた背中がくくく、と揺れた。
 ありゃ、気付かれてた。

「なぁにをやってんだ、おめぇは」
「テメェだって合わしてただろうが」

 呼吸。心音。
 今度こそふふ、と鼻から笑いが漏れた。
 煙草が短くなってきたので体を起こすと、ゾロの指に巻いていた金糸がするりと逃げて行った。
 サンジはゾロの横から腰掛けパイプに膝をかけ、カウンターに身を乗り出してキッチン側に置いてあった灰皿を手繰り寄せる。膝立ちのまま煙草をもみ消すと、見計らったように横から腰を抱き込まれて引き寄せられた。
 ストン、とゾロの膝の上に横抱きだ。

「なーんだよー、マーリモちゃーん」

 ゾロより目線が高くなり、緑色の頭が丁度胸元にくる。少し伸びて後ろに撫でつけられた髪に両手を差し入れ、ぎゅうっと抱き締めた。
 ゾロも腰に回した手に力を込める。シャツ越しの胸へぴったり密着したゾロの耳に、今度ははっきりとサンジの心音が響いた。先程よりも少しだけ速い。
 サンジは腕の中の頭をわしゃわしゃとかき混ぜ、再び抱き締め顔を埋める。

「……マリモくせー!」

 ガバッと顔を上げわひゃひゃと大笑いするサンジの後頭部に手を差し入れ、ぐいっと下を向かせてゾロ自身は喉を反らせて上を向く。
 鼻と鼻を擦り合わせ、すん、と匂いを嗅いだ。

「おめぇはヤニくせぇ」

 サンジは眦を下げ、にやんと笑う。

「お嫌い?」

 つられてゾロも片側の口角を上げて笑った。

「いいや? 大好物だな」

 後頭部を押さえていた手を引き寄せると、サンジの唇が降ってきた。
 何度か角度を変えて口づけた後ゾロの舌がサンジの口内へ入り、舌を誘い出そうと動いたところで不意に離れた。

「チャージ完了」

 キスの余韻が残る濡れた唇をぺろりと舐める。

「ああ? なんだそれ」
「明日への活力を充電してたんだよ。オレは忙しいコックさんだからな。珍しく早くキッチンが片付いたから、もう寝る」

 そう言うと、ひらりとゾロの上から飛び降りた。

「イチャイチャしたかっただけだもーん。これ以上やったら放電しちまう」

 こんのやろう、と頬が引き攣るゾロにお構いなしで傍を離れようとするサンジの手を掴んで止め、無遠慮にズボンのポケットを弄る。ビックリしたサンジが身を捩ったのですぐには見つからなかったが、彼が愛用している懐中時計を探り当てて取り出した。
 蓋を開けてみると日付が変わっている時刻。

「おめっとさん。今年もおれが一番乗りだな」

 この時ばかりはニヤリではなく、美味いものを食べた後と同じように破顔する。この顔に弱いことを知ってやっているのかと疑いたくなるが、そんな器用さを持ち合わせていないことも知っている。

「ありがとさん」
「今晩覚えてろよ。溢れるくらいたっぷり充電さしてやる」

 途端にまた獣のような笑みに変わった。

 こえーな、おい。ってかそれ、オレにしてみたら放電だってば。

 とは敢えて言わず、複雑な面持ちで今度こそ寝るためにゾロの傍を離れた。

 まあ、今日はちょっと我慢させてしまったけど、このイチャイチャした余韻をひきずって一日過ごすのは悪くないと思うんだけどな。
 新しい一年の始まりをこんなほんわかした気分で迎えるのはとても幸せなんだよ。
 お前にも伝わっていると思うけど、な。

 


 足取りも軽く。
 鼻唄なんかを零しながら。



end