4.卵豆腐(約1700字)

2015年04月09日 08:42
一番くじ景品ローのガラスの器に卵豆腐入れた、
と呟いただけでおもしろシチュ提示して下さったネタの女神様、ありがとうございます!
 
 
 
 
 
「お前、嫌がらせか?」
「はァ? 何言ってんだテメェ」

 サンジが運んできたガラスの小鉢を目にし、ローが盛大に顔を顰める。
 確かに右手には残り物で急遽拵えたちくわとネギの梅和えがあるが。

「お前ね、イヤなものレーダー敏感過ぎだろ。お前のはこっち、っうわ!」

 左手にあった同じ器のものを見せようとするも、珍しく指先を滑らせてしまう。
 落としてはいかん! と意地が働き、ぐっと指先に力を込めれば瞬時に器を固定することができたものの、器の中身は勢い付いてつるんと外へ飛び出し、きちんと食卓に着いて待っていることを躾けられたローの、顔へ。
 反射的に目を閉じるとべちゃ、という音と感触。咄嗟に両手を受け皿にして顔から落ちてくるものを受け止めたのは、躾の賜物だろうか。

「……テメェ」
「あぁ、悪りぃ。ってか勿体ねぇ」

 目を閉じたまま開けられないローは頭をがしっと両手で掴んで固定され、何が起こっているのか未だによく分かっていない状況の中で、目許をぬるりと這い上げる感触にびくりと身を震わせた。

「な、何してる」
「動くな」

 ぴしゃりと言い放たれ、思わず言うことを聞いてしまう。普段なら「俺に命令するな」と凄んでいる言われようなのに、状況が掴めないというだけで黙ってしまうのはきっと、相手がサンジだからだ。
 されるがままに身を任せていると、髪の毛をつんと引っ張られる感触。ちゅうちゅうと小さく音もする。それから額の真ん中、眉に沿って、目尻、と先程と同じくぬるりと這い回っているのは薄い舌だと分かった。
 不意に口端に垂れてきた何かを、ローは反射的に舌で受け止める。微かな味だったが、それは卵豆腐だった。
 食べ物を無駄にするのを嫌がるサンジが、ローの顔面で砕けた卵豆腐を無駄にするまいと夢中で舐め取っているのだと、漸くこの状況を理解できた。理解できると、この言うなりになっている様が少し面白くない。
 舌は額周りから瞼の上に移動し、休みなく蠢いている。右眼がすっかりキレイになって舌が反対へ移動すると、やっと片側だけ薄らと視界を取り戻すことができた。
 目の前には揺れる金の髪。僅か目線だけ動かすと、少し乱れた金糸の間から覗く青い目がちらりとこちらを伺い、すっと細められると小さく笑ったのだと分かった。
 再び口許に垂れてきたのを感じ、「おい」と短く声をかけるとそれを舌で掬い取り差し出して見せる。「ここにもあるぞ」と無言で示せば、意味を汲み取ったサンジの口許が緩やかに弧を描く。

「最後に喰ってやるからそのままで待ってろよ」

 そうしてローの口角をちろりと舐め、舌先を鼻の脇へ這わせてゆっくりとへばりついた卵豆腐のカケラを刮げとって行くと、自身の口唇をぐるりと舐め回して見せた。
 これはもう、当初の目的が脇に除けられ、欲の湧き上がってきた仕草だ。舌を出したままローの片口が僅かに上がる。
 再び顔を近付けてきたサンジが唇を寄せ、差し出されたローの舌ではなくその下にくぐるようにして下唇を舐め、顎髭にじゅっと吸い付いた。そうしてから舌の裏に舌先をあててなぞり、ローの眼を下から仰ぎ見て、ゆっくりと舌を食む。
載っていた柔らかなカケラが音もなく潰れた。
 舌を好きにさせたまま、ローは手に受け止めていた残りの卵豆腐をべとりとサンジの頬に塗り付けた。驚きで眼が丸くなったサンジの両頬をそのまま掴み、舌を捕らえられていた唇ごと覆うように口を塞ぐ。
 無意識に逃げを打って舌から離れた唇を割って中へ入り込み、これまで大人しく待っていた分を取り返すように貪る。始め肩を押し返すように抵抗していたサンジの腕からは、すぐに力が抜けて行くのが分かった。少し強引にしてやると抗えなくなるのを知っている。
 一頻り咥内を嬲って解放してやると、浅い息をつきながらすぐさま文句が飛んできた。

「テメェ、食いモン粗末にすんじゃねぇって……」
「しねぇよ」

 サンジに皆まで言わせず言葉を被せる。

「全部キレイに舐め取ってやるよ。お前がしたようにな?」

 そう言って喉の奥で笑いながら、少し色付いた首筋を流れた淡黄色のカケラに、殊更ゆっくりと舌を這わせた。



end