32.煙草

2015年04月10日 09:32
ふぉろわ様の「サンジがタバコ持ったまま寝ちゃってそれをゾロが取ってあげる」発言に萌えて。
 
 
 
 
 
 ああやばい、と思いつつも、睡魔に負けた体は言うことをきかない。ゆっくりと閉じて行く意識の片隅に、口に咥えたままの煙草の行く末が懸念される。
 ぽとりと、灰の落ちる気配。ゆるゆると、口許を離れていきそうな焦燥。火が、と思うのに、堕ちていく。
 完全に飲まれる刹那、不安を攫っていく人影が。
 ほんの僅か唇を掠めた、硬い指先。最後に機能していた聴覚が、終わりかけの煙草を吸い上げる音と、ゆっくりと紫煙を吐く息遣い、灰皿に押し付ける微かな音を拾って、途切れた。

 ゾロは小さく嘆息し、傍に落ちていたジャケットを掛けてやった。ふ、と漏らすように小さく笑い「アホ面」と言葉を落とす。聞こえているはずもなく、半開きの口許は平和そのものだ。
 ぎし、と手をついたソファの背が軋みをあげる。無防備な下唇を軽く食んで、優しく吸い上げて、それでもピクリともしない顔を満足そうに眺めて、ゾロは見張り台へ戻っていった。
 
 
 
end