18.柿食えば

2015年04月07日 14:49
柿が大好きなんです。わたしが。
 
 
 
 
 
「あぁ、やっちまった」

 キッチンから落胆の声が聞こえる。何事かと様子を伺ったゾロは、柿を前にして項垂れているサンジを訝しげに見つめた。

「どうした」
「……オレ的旬を逃しちまった」

 柿は固すぎず、柔らかすぎず、剥くと多少ぬるりとして微かな弾力があるくらいが好き。それくらいがほんのりと甘く、そこを過ぎるとすぐにぐしゅぐしゅと潰れるくらい柔らかくなり、甘さもきつくなってしまう。
 そんなことを滔々と話していたことがあった。柿を剥きながら。だからゾロの眼の前に出てくるのはサンジの好みに熟れた状態のものだったし、それはそれで確かに美味しいので問題はなかった。

「ま、仕方ないか。食えない訳じゃないんだし」

 好みの旬を逃しただけで、嫌いではないのだ。悪いのは自分であって、食べ物に罪はない。
 サンジが柿に手を伸ばそうとしたところで。

「おれが食う」

 ゾロが横から柿を攫っていった。シンクの上で果物ナイフを使って十字に切り込みを入れると、じわ、と僅かに果汁が溢れてきた。

「こんくらいならまだ……」

 まるでみかんのように手で剥いていくと、面白いくらい綺麗に実が残る。それにがぶりと食らいつき、多少啜るようにしてあっという間に口の中へ納めてしまった。大した咀嚼もせずに喉仏を上下に揺らす。

「ま、確かに甘いな」
「嫌いだろ、甘いの」
「柿はなんていうか、慣れだ。婆様が好きでよ、遊びに行くといつもあったんだが、びっくりするぐらい完熟の、触ったら溶けるんじゃねぇかと思うような柿ばっかりだったんだ。口つけて中身吸い出すのがガキの頃面白くてな」

 思い出し笑いをしながら、次の柿も同じように剥いて食べている。

「難点はコレだな。水分多くてダラダラになっちまう」

 手を果汁で濡らし、口周りも多少汚している。だからシンクの上に乗り出すようにしていたのか。

「おら寄越せ」

 四つ目に手を伸ばす。

「別に無理して全部食わなくても。6個もあるのに」
「こんなん、ほとんど水分だろ。別に無理してねぇよ。結構懐かしい味だ」

 剥いて、啜る。

「……オレも食う」
「おぅ」

 ゾロは5個目を剥いてサンジに手渡し、自分は6個目に手をつけた。サンジも大きな口を開けてかぶり付く。じゅるりと吸い込んで、口の中で柿の中央にあるぷるんとした食感を楽しんだ。この感触は結構好きなのだ。ただ、こうなる前の食感と甘さの方が好きなだけで。
 サンジの横で、ゾロも最後の一つを口にした。これで無駄にすることなく完食だ。
 シンクで手を洗っているとサンジも横から手を出してくる。肩で腕で押し合い、二人で流水の取り合いのようになる。手のベタベタを洗い落としながら、ゾロの口端に残ったオレンジ色の欠片を舐め取ってやった。
 にやりと笑ったゾロがべろりと唇を舐め返してくる。

「甘ェ」

 水を止めるとまたタオルの取り合いをして手を拭き、二人で大笑いしながら抱き合って、リビングのソファに倒れ込んだ。
 
 
 
end