2.和風バレンタイン

2015年04月07日 14:12
和食党のバレンタイン、ゾロサンバージョン。
 
 
 
 
 
 夜のダイニングキッチンには、酒飲みの剣士と休憩中のコック。
 何を話すでもなく、サンジの作ったつまみを肴に酒を飲み、レシピノートにペンを走らせる。

 

 ふと、サンジが懐中時計を取り出して日付が変わったことを確認して席を立ち、冷蔵庫から何かを持ち出してゾロの前に出した。

「ほらよ、ハッピーバレンタイン」

 皿に盛られた、サイコロ状で濃い紫褐色の物体がいくつか。それから熱いお茶。

「なんだ?」

 チョコ、に見えなくもないが、何となくチョコらしくない。第一、 随分と艶めいて瑞々しい。
 サンジはゾロの向かいに座り頬杖をつく。そのわくわくとした眼差しに弱い。

「いいから食ってみ?」

 空色の目が細められ、早く手をつけることを促される。こういう顔をして出してくる食べ物にハズレはないことを知っている。
 添えられていた竹の楊枝で刺し、口に入れて一度動きが止まる。ひと噛みして隻眼がカッと見開いた。
 チョコだろうと思っていたそれは全く違うものだった。

「うめェ」

 思わず漏れた声に、サンジは目尻を下げて嬉しそうに笑った。

「だろ?」

 バレンタインデーはいつも、サンジから皆へチョコのプレゼントがある。勿論メインは女性陣であるが、ついでと言いつつ男連中へも用意する。
 あまり甘いものを好まないゾロへはボンボンを贈っていた。
 今回は、以前本で目にして作ってみたいと思っていたもので、たまたま似た材料があったので応用してみた。

「それな、ヨウカンっていう菓子なんだ。お前、絶対好きだと思ったんだよ、こういうの」

 〈絶対好き〉と断言されるくらい、好みを把握されていることに何となく気恥ずかしさを覚える。照れ隠しのように無心に口を動かしお茶をすすると、その相性の良さに二度驚く。
 そんな様子を見ることはサンジの至福のひとつだ。ニコニコとしているサンジを前に、先程から飲んでいた酒にも口をつける。

「こっちも合う」
「そうなのか? 米の酒は度数キツくて、味わかんねぇんだよなー。しかもお前が飲むの、辛いのばっか」
「辛口だから合うんだ」
「へぇー」

 サンジはテーブルに身を乗り出し、人差し指をチョイチョイと動かして口を開けた。ゾロは羊羹をひとつ、その口に放り込む。
 もぐもぐと口を動かし飲み込んだところで、ゾロが飲んでいた酒に手を出そうとするが、一瞬早く立ち上がったゾロにネクタイを引っ張られ、そのまま口を塞がれた。いつの間に口に含んだのか、酒が流し込まれる。ぴっちりと隙間なく塞がれていたため、容赦なく喉を通っていった。
 何とか咽せずに全部飲みきると、ついでとばかりに口内を弄られ舌を吸われる。息苦しさが限界を超えたところで無理矢理引き剥がし、ハアハアと荒い息を繰り返しながらベシ、とゾロの額を平手で打つ。
 ゾロはニヤニヤしながら「合うだろ?」と嬉しそうだ。

「わかるか、ボケ! 寝るっ」

 そう言って出て行ったサンジの耳が赤かったのは、酒のせいかどうなのか。



end