1.路地裏

2015年04月09日 09:48
診断メーカーお題「30分以内に3RTされたら、路地裏で、苦笑しあってほっぺにキスをするルサンをかきましょう」より。
ラブいルサンは初めて書いた!
船長はしっぽわっさわっさする犬系。
 
 
 
 
 
 珍しく買い出しを手伝うと言うので一緒に行動していたが、突然腕を引いてどこへ連れ出すかと思ったら。
 市場の喧噪から僅か離れた路地裏は、あまり日の当たらない湿った匂いが鼻をつく。
 背中を熱の籠っていない壁に押し当てられ、有無を言わさず首筋に小さな鼻先が潜り込んできた。

「おいコラ」

 この程度では制止できないことは分かっていながらも、場所が場所だけに一応言ってみる。ほんの少し中に入っただけで、いつ誰がここに足を踏み入れるか分からないのだ。だがやはり聞き入れる気はないらしい。
 すんすんと匂いを嗅ぐ仕草はいつも犬みたいだと思う。ふわりと揺れる尻尾が見えるようだ。
 小さな鼻息が薄い皮膚を掠めると、意思とは無関係に体が跳ねる。

「なあ、ちょっ」

 尚も止まないその行動に些か腹立ちも含めて、黒い髪の中に手を入れ強めに引いた。艶めいた黒眼がほんの少し下から覗くように見上げてくる。

「がっつくなよ」

 困ったように小さく笑いながら、拗ねて丸く膨らんだ頬に唇を押し当てた。

「だって、腹減った。サンジの匂いが強くなるのが悪い」
「匂い?」

 じわりと上がった気温に少し汗をかいただけだ。
 鼻先を耳許に押し込まれ、再び匂いを嗅がれる。なんだか居たたまれない。

「なぁ、なんかそれ、恥ずかしいんですケド」

 自分でもいつもと違う声音だと分かるくらいだから、きっとこの犬のような男も気付いただろう。
 熱を持ち始めた耳朶を唇で食まれ、肩がぴくりと上擦った。

「ちょっと、勘弁……」

 片手で顔を被い、有らぬ方向を見ているのを見られて、それだけできまりが悪い。
 指の隙間を縫うようにふにゃりと唇が吸い付いてきて、ちゅうっと微かな痛みを伴って吸い上げられる。

「ぃってェよ」
「ほっぺ、あっちィな」

 噛み合わない会話に一瞬呆気にとられるが、すぐに喉の奥から苦笑が漏れた。つられて目の前の黒眼も細く和らぐ。
 仕方ねぇなと言葉を零しながら、大概自分はこの男に甘過ぎるなと毎度のことに呆れてしまう。
 それでも、甘やかしてやりたくなるのだ。こんなに飢えた目を向けられたなら。

「前菜までだぜ、キャプテン」

 あとは夜のお楽しみだ。
 そう言うと嬉しそうに唇を重ねてきた。



end