ルフィ誕生日2014
ゾロサン前提のルサンな感じで始まったシリーズです。
サンジが妙なゆるゆる感。
お母サンジ目指して童謡「おかあさん」を元にしたけどよくわからないものになった。
今日もぐるりと長く伸ばした腕で巻き付く。
食っても食っても食い足りないらしい麦わら一味の船長は、食料管理に厳しい金髪のコックが、上手にお強請りすると呆れつつも口に何か入れてくれる甘さを知っていた。
背中に船長を背負いながら、コックさんは背筋を伸ばして事も無げに己の職務を遂行する。
当の船長は肩に顎を載せて、滞りなく動く魔法のような手をジッと眺めていた。朝食の準備中に起きて来ることも珍しいのに、随分と懐いて来るのもいつもと様相が違う。
不意に、動物的嗅覚を誇る船長の鼻がひくひくと動き出す。
「なんか、サンジはいい匂いするな」
「匂い? 香水の類いはつけてねぇぞ」
そういった人工的なものは、この船長が元から好まないのは知っているはずだ。だからそれを「いい匂い」と言うはずもないのに。
肩口の男はそうじゃなくて、と一応断りを入れて。
「いろんな匂いがする」
「へぇ、どんな?」
タバコの匂い
一番強い匂いだから「サンジだ」ってわかって好きだ。
洗濯の石けんの匂い
服からだけじゃなくて、もっとたくさんする。
「そりゃテメェらが片付けねぇから、オレが洗濯する比率が高くなっただけのことじゃねぇの?」
やんわりと抗議の色を含めて、でも仕方ないと言ったように口許をゆるりと上げて笑う。
それからメシの匂い
今は卵焼き! んまほー!
船長を背負いながら難なく焼き上げただし巻きたまご。その両端を切り落としたものを、肩口で大きな口を開けている大食漢に与えてやる。
嬉しそうにもぐもぐと口を動かし、すぐに飲み込んでしまうとまた口を開けて放り込まれるのを待っている。まるで巣で餌を待つ雛鳥だ。
焼いたたまごの数が人数分以上なので、切り落とされる端の数もそれなりで、まとめて大口に突っ込んでやると満足そうだ。
早々に飲み込んで唇をぺろりと舐め上げると、鼻先を耳許へ擦り付けてきた。鼻息が肌を掠め、ぞわりと背筋が粟立つ。
「ちょ、おま、なにしてん……」
あと、ゾロの匂い
ぎくりと小さく強張る。
その一瞬の動揺を嗅ぎ分け、尚もすんすんと鼻を鳴らして耳の裏を探る。
「ゾロの刀と、汗の匂いがする」
シャワーは浴びたはずだ。
彼が今嗅いでいるそこは、ゾロが好んで触れてくる場所だ。だから自然と、ここに触れられるとぴくりと反応するようになってしまった。でもこんなとこ、触れてくるのはゾロくらいだったから、油断した。
「なあ、サンジ。お前、昨日の晩メシにクスリ入れただろ」
耳介に軽く歯を立てられ、今度は完全に背筋を震わせた。
「なんだ、バレたか」
前のよりもずっと少ないぜ?
と鼻から息を漏らすように笑う。以前、余りにも煩い船長を大人しくさせる為に、食事に睡眠薬を盛ったことがある。ただそのときは随分と効果が出てしまい、いろいろと騒動があったのだが前半は眠りこけて使い物にならなかった。ナミにはしこたま怒られた。
「……なんで分かった?」
少な過ぎたにしても、効果がなかったのなら何故入れたことに気付いたのか。
「なんか、匂い」
匂い。スパイスなどとは違う、意味ある異物の匂い。
「と、お前」
そう言って耳の裏をべろりと舐め上げられた。片膝からカクンと力が抜け、シンクの中に両手をついてしまう。
「オレ?」
はぁ、と息をついて肩口の顔を覗き込もうと、首を少し後ろへ傾けた。胴に巻きついていた手が更にしゅるんと伸び、顎を捉えられてぐいと後ろへ引かれる。
覗き込んでくる漆黒の眼。
「悪いことしてるって、匂いさせてた」
昏い瞳に、吸い込まれる。
「なんで? なんで入れたんだ?」
分かんなくて、おかげで俺、一睡もできなかった。
首を限界まで後ろに回され、痛みに呻いて微かに開いた唇を喰われた。下唇を噛まれ、口角を舐め上げられ、上唇を吸い寄せられ、舌が侵入し、歯列をざらりと撫で上げ、奥へ逃げていた舌を強く吸い上げられ、熱い舌が絡んで、伸びて、絡んで、グルグル巻きにされて、ぎゅうと締め上げられる。
無理な体勢と、経験したことのない愛撫にぎゅうっと瞑った眼の裏がスパークした。とうとう両膝がガクガクと震えを起こし、立っていられなくりずるずると座り込んでしまった。上半身は辛うじてシンクの縁にかけた両腕で支えられている。口は解放されたが、体に巻き付いた腕はそのままだ。
荒く上がった息を整えながら眇で睨むような、宥めるような、どうしたらいいのか分からないというような、複雑な色を載せた青い眼。
「だって、お前……こういうことしてくんじゃん」
昨夜は、本当にいやな予感がしたんだ。赤い月が出ていて胸騒ぎがした。淀んだ空気がお前を取り巻いていて、発情期の獣みたいな匂いがしたんだ。
こうして懐かれるのは嫌いじゃない。ひたりと吸い付くような肌は気持ちがよくて、寧ろ好きだと思う。
でも、なんか違うんだ。だから、眠っててもらおうと思っただけなんだ。
「サンジの口ん中も、いろんな味がした」
とろりと溢れた、温かい唾液の味
少し前に味見したチョッパー用の甘いたまご焼きの味
調理前まで吸っていたタバコの味
キッチンに来る前に交わした、誰かとのキスの味
「ずりぃ。サンジは俺が見つけて、俺が連れてきたのに」
雄の匂いを振りまいて、そんなこと言わないでくれ。
オレは、お前に抗えなくなる。
「なあ、腹減った」
「まだ喰い足りねぇか」
「本当に食いてぇモン、喰ってねぇから、な……」
突然四肢が弛緩し、巻き付いていた腕が解けてずるりと床に滑り落ちた。
背は軽くなったはずなのに、自身の体はずっしりと重苦しく、シンクの縁に引っ掛けていただけの腕は脱力して、物入れの扉に凭れて座り込んだ。
横に転がる男の寝顔はいつもと変わらない。大きないびきにほっと息をつく。暫しぼぅっと空を眺め、煙草を求めてシャツの胸ポケットを探るが見当たらない。ダイニングのスツールに放ったジャケットだったか、と小さく舌打ちし重い腰を上げかけると、ごつ、と聞き慣れた靴音と共に黒いジャケットが目の前にぶら下げられた。
気怠げに視線を上げると、隻眼の剣士がニヤニヤと楽しそうに笑っている。その様に些か腹が立ち、ジャケットをひったくるとすかさず脛に蹴りを一発入れた。
「強請られたら何でもやるのか、このエロコック」
「ふざけんな。見てねぇで助けるだろうが、普通」
「悪ぃな、おれも船長には逆らえねぇ」
漸くお目当ての煙草を手にし、咥えて火を点けようとしたところを摘み取られる。眉根を寄せて顔を上げると緑色が降ってきて影を作り、べろりと唇を舐められ、タバコ分開いた隙間から舌を差し込まれた。口内をぐるりと大きくゆっくり嬲られただけですぐに引き抜かれ、鼻先を触れさせながらクツクツと喉の奥で笑う声が聞こえる。
「ヨかったかよ、コイツのキスは。随分とイイ顔してたぜ?」
「一度やられてみろよ。人間業じゃねぇんだからよ」
ムッと突き出した唇にタバコを戻されると、顎を掴まれて横向きにされ、先程船長に舐められた耳の裏を塗り替えるように再び舐め上げられた。どうやらマーキングのし直しをしているようで、少なからず嫉妬のようなものはしているんだな、と少しかわいく思ってしまう。
最後におまけとばかりに耳朶の付け根辺りにちゅうと吸い付き、うっすらと色がついたのを見て満足した剣士は、だらりと全身を弛緩させて眠りこける船長を肩に担いで立ち上がる。
サンジも漸く煙草に火を入れることができ、心底疲れたというように煙を吐いた。
「で? 本当に助けないワケ? 船長命令だったら」
男部屋へ向かおうとしていたであろう男へ投げかける。
爪先は進行方向を向いたまま、首だけで振り返った。
「おめぇはどうなんだよ。ヤんのか? 船長命令なら」
「さぁ? どうかな。オレ、気持ちぃコト好きだし?」
にやんと艶笑するサンジに隻眼を細める。
「……刀を抜くようなコトにならなきゃいいがな」
それだけ言って、船長を連れてキッチンを出て行った。その背を見送りながら、手許の煙草を頭上のシンクに放る。
ジュッと音がし、丁度水分のある場所に落ちたらしいことがわかった。
抜かれた刀は、どちらを斬るためのものか。
唯一無二と決め、未来の海賊王となるこの船のキャプテンか。
嫉妬を覚える程に情を通わせた、強く美しい料理人か。
「お前は、どっちを選ぶんだろうな?」
サンジは新しい煙草を取り出すと、指先で弄びながら愉しそうに笑った。
end