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2.好天に笑うキミ(約4300字)
2.好天に笑うキミ(約4300字)
2015年03月27日 13:26
ほのぼのでイチャイチャさせたかっただけ。
何のヤマもオチもない、ただのイチャイチャ。
天気のいい午前中。お日様はぽかぽかしていて、風も適度にある。
「……あー、洗濯すっかなぁー」
手摺に凭れて海を見ながらふかしていた煙草を携帯灰皿に押し込む。
取り敢えず天気のいい日にバッとやってカラッと干してしまいたい大物にしようか。丁度ログが溜まるまで停泊中で、ボンクを使っているのは船番だけだし、万が一乾かなくてもダイニングのソファでもどこでも寝るところはある。
よーし、シーツをまとめて片付けてやろう。
ああ、素晴らしいよ、レディたち。この天気とオレの行動を見抜いていたかのように、さり気なくシーツが出してある。
いいんだね?オレが洗ってもいいんだね?しっかりアイロンもかけてお返しするからね!
よーし。
「働けマリモ」
「……おめぇ、独り言は一人の時に言えよ」
全部だだ漏れなんだよ、と言いながら腰を上げるその姿は然程イヤそうには見えない。手早く洗濯セットを用意するサンジを見ながら、大きく欠伸をしてがりがりと頭を掻いた。
石けんの泡が立つ桶の中でじゃぶじゃぶと大きなシーツを洗い、漱ぎ、二人で両端を持って向かい合い、逆方向へ向かって捻り上げる。生地を痛めないように程々の力で絞り、広げて四方を掴み、パン! と振るい、甲板に張ったロープにもう一度シワを伸ばすように引っ張ってから干す。これをひたすら、手元にあるだけのシーツで繰り返した。
その間特に意味のない他愛無い会話を挟み、ランチや晩ご飯のメニューを口にして反応を伺ったり、煙草を咥えたために言葉数が減ったり。
そのかわり、細い声の鼻唄が流れるのをゾロは楽しんでいた。
天気がいい。大騒ぎするヤツがいなくて静かだ。
甲板に所狭しとはためく白いシーツの海。きっと夕方にはすっかり乾いているだろう。
昼食はサンジの好きな海鮮パスタ。夜はお前の好きなもん作ってやるよ、とエビを突きながら笑う顔。
おう、と短く応える声は少し高く軽い。
ゾロが甲板の芝生に腰を降ろすと、午前中寝そびれたせいと程良い満腹感で急に睡魔が襲ってきた。このまま寝てしまおうかと思うが、なんだかとても勿体ない気もする。
けれどひらひらするシーツの裾が太陽の光をちらちらと隠し、眠れ眠れと誘惑する。
ああ、引っ張られる。
ばたりと大の字になったタイミングで顔に影がかかった。逆光の中に透ける金の髪。
「こんな直射日光の中で寝るなよ。芝生に融けるぞ」
影の端でピコピコ動いているのは火の点いていない煙草。顎がくいっと日陰を差す。
ゾロは腹筋で体を起こすと、移動したサンジの後について行った。
手にしているのはボウルの中にたくさんのじゃがいもと人参。
「背中貸せよ」
そう言われてサンジに背を向けて腰を降ろす。そこに背中を併せるようにしてサンジも腰を降ろした。
煙草に火を着け、取り出したペティナイフといもを手にすると自然と流れ出す鼻唄。リズムに乗るように、するするといもの皮が剥けていくのが音で分かる。
「……それ、何の歌だ? いっつも歌ってるヤツ」
背中から響く柔らかな旋律はいつも耳にするものだ。
「ノースの子守唄」
ふうん、と応えるとまたメロディーが流れ出す。
合わせた背中が温もりを伝え合い、とても心地良い。
ああ、眠てぇなぁ。しかも子守唄かよ。
ゾロがうとうとし出したのが、背中にかかる重みでわかる。
途端に何故か急におかしくなって、堪えきれずにサンジの背中が揺れる。そのせいでゾロは足を入れかけた眠りの淵から戻ってきた。
「……なんだよ」
何がそんなにおかしいのかわからない。
ほんの少し声が低くなる。
「ん? いやー、大したこっちゃねぇけど」
「なんだよ」
「……珍しくサカってこねぇなぁ、と思って」
「なんだ、ヤリたかったのかよ。それならそうと……」
「違うって。単純に珍しいなぁって思っただけだよ」
人参の皮むきに取りかかりながら、まだクスクスと笑っているようだ。
「……天気、いいからな。中に籠んの、勿体ねぇと思っただけだ」
こんなに天気のいい日に、二人だけだ。なんとなくこの時間を楽しみたいと思っただけ。
「……ふぅん?」
サンジは曖昧なトーンで返すが、耳までほんのり色付いて口許だって少し緩んでいるに違いない。こんな声音のときはきっとそんな風だ。
そんなことを想像するとゾロの口許も自然と上がる。
「おし」
後ろから声がして均衡を保っていた背中が離れた。サンジが急に立ち上がったことで、ゾロはごろんと寝そべる。
見上げると伸びた背筋の先にある金色の中に、チラリと見える項に耳の裏。ほんの少し赤みがかっていて、やっぱり、と何とはなしに嬉しくなる。
キッチンへ向かう背中を見届けながら、再び襲ってきた睡魔に今度こそ足を取られた。
額にヒヤリとした硬い感触で意識を戻される。
「水分補給」
声と同時に額からモノがなくなったのでのそりと起き上がる。サンジは手にしたグラスにビールを注ぐと、瓶の方をゾロに渡した。
「どんくらい寝てた?」
「そんなに。一時間くらいかな」
薄らと汗をかいた茶色の瓶を受け取り、口を付けて一気に煽る。
サンジもグラスに入った泡立つ黄金色の液体を、白い喉を反らせて一気に流し込んだ。
「随分とサービスがいいな」
「これ一本だけな。どうせ夜も飲むんだろ? それに昼ビール、なんかいいだろ。みんなに内緒ってとこがまた」
悪戯っぽく笑うと幼さが垣間見える。
これは時折他の仲間にも見せるものだ。
さて、とグラスをトレイに置きシーツに向かって歩き出す。
「おら、回収すんぞ」
「へいへい」
返事をしながらついてくるゾロに口角が上がる。こうして素直に言うことを聞くのは二人だけの時、というのをサンジも分かっている。
はためくシーツはすっかり乾いていて、取込んだ一枚一枚を簡単に畳んでそれぞれのボンクの上に乗せていく。女性陣のものだけは宣言通りしっかりとアイロンをかけてシワを伸ばし、一寸の狂いもなく角を合わせて畳んだ。
ついでとばかりに前回の洗濯後そのままにしてしまった自分のシャツにもアイロンをかける。何となく、数が貯まらないとやる気が起きなかったのだ。
「器用なもんだな」
「お前、アイロンなんかやったことなさそうだな」
「ねぇな」
縦横無尽に動き回るサンジの手の動きと、煙草を咥えて楽しそうにアイロンを動かす顔を一緒に視界に収める。
「・・・何考えながら手ぇ動かしてんだ?」
「ふぇ?」
突然思ってもみない質問をされ、煙草を落としそうになって変な声が出てしまった。
「何って……何だろうな?」
「何にも考えてないわけじゃねぇだろ」
「そうだなぁ。この後のメシまでの段取りだとか、明日は晴れんのかなぁとか、あと何だっけ。なんか、思い出せないような取り留めのないことばっか」
返事はないが、どうやらゾロは納得したような表情だ。
アイロン掛けが全部終わり、男部屋からダイニングキッチンへ移動しようと甲板へ出ると海が燃えていた。オレンジの夕陽がゆっくりと水平線に沈んでいく。
いつもこの時間は大量の夕食の準備をするためにキッチンに籠りっぱなしだ。海上で生活しているのに夕陽を拝む機会が少ないのもおかしな話だ、と笑いが零れる。
ああ、でも朝焼けはいつも見ているな。あれも、これには及ばないが海が燃える。
夕陽に釘付けになったサンジの横で、ゾロは夕陽に透ける金の髪を眺めていた。オレンジの光を吸い込んで、本当にキラキラと輝きを放っている。
何故か唐突に美味そうに見えて、思わず唇で食んだ。なんとなく、甘いような気がする。
「うぉい、何してんだよ」
「……腹、減ったのかもな」
「はは。バッカじゃねぇの?」
そう言ってキレイに笑った顔は、ゾロにだけ見せるものだ。
メシにしようぜ、と歩を進める後に続いた。
夕食は肉じゃがだった。後片付けは二人で並び、サンジが漱いだ皿をゾロが拭いて仕舞う。
全部終わるとゾロは酒を物色し、サンジは用意していたつまみを出してソファに身を沈めた。煙草に火を着けて吸い込み、大きな溜め息のようにゆっくり煙を吐き出す。
酒を飲もうとしていたゾロだったが、徐に近付くとソファの端に寄るように手で合図した。
「なんだよ」
「膝貸せ」
「はぁ?」
「昼間背中貸しただろ。膝よこせ」
言うが早いか、どっかりとソファに体を投げ出し腿に頭を載せる。仰向けに見上げると影ができ、金色が降ってきて鼻先にキスをした。
頬にさらりと髪が触れ、煙草の匂いが鼻腔を掠める。
「マリモは甘えたちゃんだなぁ」
そう言って嬉しそうに笑う。
そうだ、今日は随分と笑っているな、と改めて思う。きっと天気が良かったからだ。いつものように働いていたけれど仕事量は少なかったはずだし、雑務に追われていたわけでなくのんびりとしたいことをしていた。
天気が良くて、二人で洗濯をして、二人でご飯を食べて、二人でビールを飲んで、二人で夕陽を見て、二人でのんびり過ごしたから。
「なんか、今日、楽しかったな?」
「あぁ、そうだな」
よく笑うサンジにつられてゾロも破顔する。
少し伸びた緑髪に指を差し入れ、くしゃくしゃと掻き回して遊ぶサンジはやっぱり楽しそうだ。
「酒、飲まねぇの?」
「んー、こっちも捨て難いな」
そう言いながら頭を載せている腿をさわさわと撫でる。
くすぐったそうに動いた足に、ん? と疑問符を付けてゾロが体を起こした。両手で腿を包み込んだりぺたぺた触りまくったりと、動きが急に不審者だ。
「ななな何?」
「……太くなったな」
「な、な、なにおー!」
触っていた足の先が飛んで来るのを片手で受け止める。
「テメェ、失礼なこと言いやがって! オレは体重変わってねぇぞ!」
「いや、違ぇって。太ったじゃなくて、筋肉ついて太くなったっつってんだ。ほんの数ミリだけどな」
「……ナニお前、何でそんなことわかんの?」
確かにここ最近、ピッタリだったズボンがほんの少しだけキツくなったような気もしていたのだ。
「なんぼこの足抱え上げたと思ってんだ。こんくらいの変化はすぐに分かる」
「……ヘンタイくせぇー」
ニヤリと魔獣面で笑うゾロに呆れと羞恥が同時に沸き起こり、どうしても顔は赤くなってしまう。が、これがスイッチになってしまったらしく、サンジはあっさりと唇を奪われてしまった。何度も角度を変えて重ね、わざと音をたてるように隙間を作り、執拗に舌を絡め取られる。
楽しそうに口内を嬲っているところに肩をタップすると、名残惜しそうに唇を離した。
「た、煙草! 危ねって」
まだ火の点いたままの煙草を目の前に突き出されたので、それを摘まみ取ってテーブルの灰皿に押し付ける。もうこれで気にするものは何もない。
「よし、サカるぞ」
「おい、酒は?」
「おめぇ喰ってからだ」
「……しょうがねぇ魔獣ちゃんだなぁ」
クスクス笑いながら、ちょっとだけ余裕なく伸し掛かってキスしてくるゾロの首に両腕を回した。
end
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